人文社会系研究

【連載】文献調査が変わる!研究者が極意を伝授『ジャパンナレッジ版 史料纂集・群書類従』:第1回 「史料纂集」・「群書類従」には何が書かれているのか

2023.12.19

2024年1月10日に、JKBooks「Web版史料纂集第2期」がリリースされます。これを記念して、リリース2カ月前の2023年11月10日に、四国大学石井悠加先生、八木書店柴田氏・佐藤氏を迎え、図書館総合展でフォーラムを開催しました。

本フォーラムの動画はこちらで公開しております。そのうちの一部を編集、抜粋し連載記事としてお届けします。

第1回では、「史料纂集」・「群書類従」の版元である八木書店・柴田氏による上記2つの史料のイントロダクションをお届けします。

【柴田 充朗 氏】
株式会社八木書店出版部 取締役。大学卒業後、続群書類従完成会に入社。以来、書籍版「正・続 群書類従」の改訂や「史料纂集」シリーズ、各種学術書の編集を担当。 2006年に閉会後、八木書店に移籍。現在に至るまで書籍版「史料纂集」の刊行を統括。資料出版畑のたたき上げ。

「史料纂集」・「群書類従」には何が書かれているのか

本日は「Web版史料纂集」の第2期リリースを記念し、「Web版史料纂集」「Web版群書類従」の併用をテーマにお話をさせていただきますが、まずは「史料纂集」と「群書類従」とはそれぞれどういったものか、ということをご説明いたします。

はじめに、「史料纂集」とは、日本の歴史・文化研究で必須の重要史料を、使いやすく翻刻した史料集成のひとつです。「翻刻」という言葉を初めて耳にされた方もいらっしゃるかもしれませんが、これはまた後ほどご説明します。「史料纂集」は古記録編・古文書編の2種類がございまして、2023年11月現在で271冊を刊行しております。今なお、年5冊前後のペースで刊行を継続中です。古代から近世にわたり、公家の日記から武士の書状、寺社の証文など、さまざまな時代やジャンルの古記録や古文書を、学会最高水準のテキストで提供しておりますのが、「史料纂集」です。

続いて、「群書類従」というのは、江戸時代に、塙保己一(1746-1821)が古代から近世までのあらゆる貴重な文献を網羅して蒐集、分類して編纂した叢書です。日本史の教科書で習った方も多いかと思いますが、当時、版木を彫って木版で刊行されていたもので、大正11年から昭和47年に続群書類従完成会が完結させました。今回は「群書類従」とひとくくりにしておりますが、「群書類従」「続群書類従」と2種類ありまして、さらに明治40年ごろに、その2つに漏れた資料を塙保己一にならって編纂した「続々群書類従」があります。Web版にはこれら3つを収録しておりまして、今回は便宜上、3つまとめて「群書類従」と呼んでおります。

「史料纂集」と「群書類従」の違い

「史料纂集」と「群書類従」は、どちらも日本史や日本文学の研究で欠かせない歴史史料ですけれども、2つには大きな違いがあります。

文献史料は、大きく分けて、当時書かれた同時代史料と、後世になってまとめられた編纂史料というものに分けられます。同時代史料は一次史料、編纂史料は二次史料というようにも言われます。たとえば、なにか事件が起きたとして、そのときに書かれた新聞記事は同時代史料、後からそれらの新聞記事の内容を引用して1冊の本にまとめたものは編纂史料、といった感じです。

「史料纂集」は、当時書かれた古記録――これは歴史的な日記のことを専門的にこう呼ぶのですが、書状や色々な証文などの古文書を収録したものですので、その当時のことが書かれた一次史料ということになります。特に、「史料纂集」は、何年何月何日にどんな出来事があったか、と年月日まで特定できる記事が多いことも、特長です。

対して「群書類従」は、塙保己一が色々な書物をまとめた史料群ですので、編纂史料というわけです。「大日本史料」や「鎌倉遺文」なども、二次史料です。その当時のことを記した一次史料と、後から編纂された二次史料とでは、やはり一次史料のほうが研究ではより重要視されます。ただし、当時の史料がそのまま現代まで残っているのがとても幸運なことだというのは、皆さんもよくお分かりかと思います。そうした、長い歴史のなかで失われてしまった一次史料を補完してくれるのが、二次史料なのです。

「翻刻」という作業について

ここで、先ほど少し触れました「翻刻」という作業について簡単にご説明します。

歴史史料は基本的に筆で書かれているのですけれども、左側の画像をご覧いただきますと分かりますように、このような、いわゆる「くずし字」という文字は専門的な訓練を受けた方でないと、なかなか読むことすらできません。それを、右側の画像のように読みやすく活字にすることを、翻刻といいます。「史料纂集」は、こうした筆で書かれた歴史史料を、活用しやすいように文字起こししたシリーズというわけです。

「史料纂集」では、さらにさまざまな工夫をしております。まず紙面上部の青枠で囲った部分、こちらに「標出」、もしくは「頭注」とも言いますが、本文の内容を要約した見出しをつけております。それから、ところどころ赤枠で囲った部分には、色々な注釈をつけております。たとえば人名――歴史史料では役職名や通称でしか書かれないということが多くあるのですが、詳しくは誰である、ということを、注をつけて補足しています。地名も同じですね。それから校訂注といって、誤字や脱字ではないかというのを専門の先生方にみてもらったうえで、訂正するための注もつけています。 

こうして、可能な限りもとの史料のかたち、文字の配置などの体裁を変えないまま、研究に使いやすいテキストを提供するのが、「史料纂集」というシリーズです。

連載第1回目は「史料纂集」と「群書類従」それぞれの特徴と2つの違い、そして「史料纂集」がどのように作られているかをご説明させていただきました。最新の研究に基づいた最良のテキストを提供しております「史料纂集」ですが、そのWeb版の登場により飛躍的に便利になりました。次回はそのWeb版についてご説明いたします。