2024年1月10日に、JKBooks「Web版史料纂集第2期」がリリースされました。
リリース2ヵ月前の2023年11月10日、四国大学石井悠加先生、八木書店柴田氏・佐藤氏を迎え、本データベースを取り上げたフォーラムを図書館総合展で開催しました。本連載では、上記フォーラムの内容の一部を編集、抜粋してお届けしています。
上記フォーラムの動画はこちらよりご視聴いただけます。また、本連載の第2回までの記事はこちらよりご確認いただけます。
第3回目、第4回目は本フォーラムの四国大学石井悠加先生による講演「Web版「史料纂集」「群書類従」~デジタル時代の古典文学研究のヒント集~」の様子を前後編にわけてご紹介します。
【石井 悠加 先生】
四国大学文学部日本文学科 講師。専門は日本中世文学。鎌倉~南北朝時代の和歌表現と空間・絵画とがどのように関わるのかを研究している。主な論文に「『慕帰絵』の制作意図─和歌と絵の役割について─」(『中世文学』61号、2016年6月)、「西行伝絵巻と時宗─『一遍聖絵』『遊行上人縁起絵』東国遊行の場面について─」(『西行学』13号、2022年10月)などがある。
Web版「史料纂集」「群書類従」~デジタル時代の古典文学研究のヒント集~
本日は、「Web版「史料纂集」「群書類従」~デジタル時代の古典文学研究のヒント集~」というテーマでお話しをさせていただきます。四国大学では以前よりジャパンナレッジの契約を結んでいましたが、この夏からはWeb版「史料纂集」第1期と「群書類従(正・続・続々)」の利用契約もお願いしております。
まだ利用を開始して数ヶ月ですが、これから教育の場面や研究の場面にどのように役立てていきたいか、その見通しを、今お聞きいただいている図書館関係の皆さまと、それからこのお話は録画してWeb上に残していくものだということで、将来検索でたまたまたどり着いた学生の皆さんに向けて、「利用のヒント」としてお伝えできれば幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
お話は以下の順に、教育利用・研究利用の順で進めてまいります。
教育利用のヒント 古典文学の場合
研究利用のヒント 和歌と絵巻研究の場合※
- 絵巻が描かない“夜の闇” ー導入のきっかけ
- 何を検索するのか ー書名一覧と書誌情報
- 「夜」の「眠り」ーキーワード検索とフィルタリング検索
- ふと出会う明け方の風景 ーランダム検索
※本連載では第4回目以降に取り上げます。
教育利用のヒント一つ目-ジャパンナレッジコンテンツの『もとの姿のイメージ』を持つこと
教育利用の一つ目のヒントは、「ジャパンナレッジコンテンツの『もとの姿のイメージ』を持つこと」です。
ジャパンナレッジを使う学生には、各コンテンツである一つ一つの辞書・辞典や全集・叢書について、それがもとは図書館の本棚のどこにどのような形で収まっている書籍であったのか、イメージを持ってほしいと思います。
たとえば図書館で、210番台の本棚の前に立ったこともなく、あるいは「日本国語大辞典」や「国史大辞典」、「群書類従」を触ったこともないまま、ジャパンナレッジやその他のWeb上のデータベースを検索することは、霞に石を投げるようなもので、何がどうヒットしたのかがよく分からないようになることだと思います。
図書館への導入後には利用者に向けたデータベース講習会をされると思いますが、できればその際は、書籍版を利用者が目で見て手に取れる形で進行していっていただくことが理想です。また書籍版の「史料纂集」の最初のページには、影印、つまり現物の写真が載っていますから、それを目にしておくことも、利用者にとってデータベースのイメージを持つための役に立つはずです。
昔、「インターネットをください」と電機屋さんにやってくる人がいるという笑い話がありましたが、似たような話で、たしかにオンラインの情報の多くは、直接手に取って調べることができません。しかし、「史料纂集」や「群書類従」のデータベースの場合は一度書籍として刊行されたものが元資料となっており、手に取ってみることができますから、学生の皆さんはぜひ図書館で本を手に取ってみてください。
こちらの写真をご覧ください。これは四国大学の学生研究室の中の「史料纂集」と「群書類従」「群書解題」のコーナーです。
四国大学の学生研究室・「史料纂集」のコーナー
四国大学の学生研究室・「群書類従」「群書解題」のコーナー
それぞれについて、このように、本棚にジャパンナレッジへの誘導文を貼り、また出版社のパンフレットや、自作のインデックスを可能な限り設置しております。また、「史料纂集」の場合は、ジャパンナレッジの詳細検索トップ画面の「本棚:書名一覧へ」という欄から、各史料の簡単な説明文を確認することができますが、これもプリントアウトして本棚に差してあります。
本棚の前に立った学生がすぐに、この叢書がいったいなんなのかが分かるように、そしてそのデータベースがいったい何について調べられるものなのかがひと目でわかるように工夫をしてみました。オンラインデータベースと、図書館や研究室の本棚に並ぶ本のイメージが、利用者の頭の中で紐付けられるようになるとよいと思います。
教育利用のヒント二つ目-古記録初心者向けの『ジャパンナレッジ流キーワードの当たり方』
二つ目のヒントは「古記録初心者向けの『ジャパンナレッジ流キーワードの当たり方』」です。
以前のフォーラムでもこの点についてご質問があったようですが、何か検索したい事柄があっても、それをどういうキーワードで検索すればいいのかが分からないことがあります。
例えば絵巻物について検索したい時には、「絵巻物」では全くヒットせず、「◯◯絵」や「絵詞」で検索しないと検出できません。このキーワードにたどり着くためにはこれまで先行研究を熟読したり、先輩に聞いたりしながら少しずつ学んでいくしかありませんでした。それは今でも非常に重要な研究のステップですが、ジャパンナレッジを利用すると、新しい語彙を少し効率よく集めることができます。
例えば、「火事」について、「Web版史料纂集」で調べる場合を、実際に動かしながら見ていきましょう。まずは「史料纂集」で「火事」と検索します。すると137件の検索結果がありますね。
この結果には、「火事」という言葉を含む言葉が並んでいますが、他に「火事」の類語はないでしょうか。
ここで有効なのが、「史料纂集」以外のジャパンナレッジに含まれている辞典系コンテンツの活用です。ジャパンナレッジの特長「全文検索機能」を使って、辞典系コンテンツを検索してみましょう。
さて、検索範囲を「見出し」から「全文」に変えています。そして、探したい現代語は「火事」ですが、その後に句点「。」を足しています。これがコツになります。検索結果をみると「火事。」が含まれるものが表示されていますが、ここには国語辞典以外のコンテンツも沢山表示されています。
国語辞典の「デジタル大辞泉」と「日本国語大辞典」に絞ってみましょう。すると、88件が残りました。
ここには方言を含むさまざまな「火事」という意味の語、「火事」の呼び方が残りました。「赤馬」「熱流(あつながれ)」、「怪し火」、「戦火(いくさび)」「鬱悠(うつゆう)」などなど。
これらをあらためて「史料纂集」で検索することで、火事に関する記事の取りこぼしがより少なくなるはずです。
これは教育現場にジャパンナレッジを導入するメリットです。記録類の中で「火事」を表す言葉といえば、例えば「回禄(かいろく)」があります。「火事のことを記録類では回禄と呼ぶことがある。」こうしたことは研究室の先輩や先生に聞けばすぐに教えていただけるものだと思います。
ですが、ジャパンナレッジでは、辞書系コンテンツでこのようにキーワードを自分で見つけて、そしてすぐに「史料纂集」や「群書類従」などのテキストデータベースで検索をかけることができます。初心者でもサポートなしにこれまでよりも広く古記録に親しみ、網羅的な調査ができるようになりました。なお、「史料纂集」で検索する前に、あらかじめ「史料綜覧」や「百練抄」「続史愚抄」などの紙媒体の文献に目を通しておくと、より一層広い事例を集めることができます。
教育利用のヒント三つ目-“好き”を検索して研究の萌芽に!
三つ目のヒントは、「“好き”を検索して研究の萌芽に!」です。
皆さんも子どものころ、初めて国語辞典や英語辞典を机に揃えた時、まずは自分の好きなことば、気になることばを調べてみませんでしたか。どんなに専門的なデータベースの場合でも、気軽にまずは自分が関心を持つことばを検索すれば、それは研究の芽になっていくはずです。
たとえばサブカルチャーを入り口にして古典文学に興味を持った皆さんは、積極的にデータベースを活用してくれますし、とてもユニークな着眼点も持っています。自分の好きなアニメやゲームのキャラクターに関する情報を、実際の歴史史料の中に目にするのはうれしいことです。そして実際の一次史料の中でそれを発見していけるとなれば、それはそのまま研究につなげていくこともできます。
先程もご説明がありましたように、「Web版史料纂集」は、それがどんな史料なのかという「書誌情報」が見やすいですし、「史料纂集」には「標出」という日記の主な内容を説明した頭注もついていますから、検索した情報の前後の日の動向を把握することができます。「史料纂集」がもともと持っていた書籍としての使い良さと、ジャパンナレッジの検索サイトとしてのシステムの使い良さが合わさって、不安なく資料を扱うことができます。
大日本史料は、歴史上の主要なできごと、つまりトップニュースを立項します。しかし古記録のフルテキスト検索の場合には、何気ないできごとや、ふとした日常の思いを直接掬い上げることができますから、まるで中世のブログやSNSを検索しているのに近い感覚もあります。その不思議な感覚を、次に「研究利用のヒント 和歌と絵巻研究の場合」として具体的にご紹介したいと思います。
連載第3回目は石井先生による講演「Web版「史料纂集」・「群書類従」~デジタル時代の古典文学研究のヒント集~」の前半をお届けしました。次回は後半をご紹介します。