人文社会系研究

【連載】文献調査が変わる!研究者が極意を伝授『ジャパンナレッジ版 史料纂集・群書類従』:第4回 デジタル時代の古典文学研究のヒント集・後編

2024.02.02

2024年1月10日に、JKBooks「Web版史料纂集第2期」がリリースされました。

リリース2ヵ月前の2023年11月10日、四国大学石井悠加先生、八木書店柴田氏・佐藤氏を迎え、本データベースを取り上げたフォーラムを図書館総合展で開催しました。本連載では、上記フォーラムの内容の一部を編集、抜粋してお届けしています。

上記フォーラムの動画はこちらよりご視聴いただけます。また、本連載の第3回までの記事はこちらよりご確認いただけます。

第4回目では、前回に続き四国大学石井悠加先生による講演「Web版「史料纂集」「群書類従」~デジタル時代の古典文学研究のヒント集~」の様子をご紹介します。前回までは、Web版「史料纂集」「群書類従」を使う事でどのように文献調査に活用できるのかというテーマについて、教育利用の観点からお話しいただきました。今回は研究利用の観点から、Web版「史料纂集」「群書類従」の活用についてお話しいただきます。

目次

【石井 悠加 先生】
四国大学文学部日本文学科 講師。専門は日本中世文学。鎌倉~南北朝時代の和歌表現と空間・絵画とがどのように関わるのかを研究している。主な論文に「『慕帰絵』の制作意図─和歌と絵の役割について─」(『中世文学』61号、2016年6月)、「西行伝絵巻と時宗─『一遍聖絵』『遊行上人縁起絵』東国遊行の場面について─」(『西行学』13号、2022年10月)などがある。

研究利用のヒント 絵巻が描かない“夜の闇”:導入のきっかけ

私がWeb版「史料纂集」「群書類従」を利用したいと思ったきっかけは、中世絵巻の中の「夜の闇」への興味でした。2022年夏にアメリカのボストン美術館所蔵の『平治物語絵巻 三条殿夜討の巻』が来日しましたが、そこにはいきいきとした中世の夜の騒動の一幕が描かれていました。

『平治物語絵巻』三条殿夜討ちの巻(ボストン美術館蔵、13世紀)ラフスケッチ(作成・石井先生)

激しい炎に焼かれる三条殿の片隅、Aの箇所には、背を向けてうずくまる女房がいます。彼女は炎にあかあかと照らされた庭にひしめく武士たちの探索から逃れようと、どうにか暗がりに身を隠している様子です。

そして画面右のB、三条殿の外には、噴き上げる炎を見て慌てて駆けつけたものの、屋敷に入れず収集がつかなくなった牛馬や人々が大パニックを起こしています。遠くには炎、しかし周辺は夜の闇の中で、それなのに松明を持っている人は一人もないため、誰も牛車に轢かれた人物がいることにも気がつきません。

そしてC、絵巻をスクロールした左手の先には、牛車を取り巻いてゆるやかに院を連れ去る武士たちが描かれています。こちらの一群は、誰も松明を持っていないのに秩序を保っています。それは夜明けが来たためなのです。

東京国立博物館の模本の写真をお借りして、実際にAの暗闇に隠れる女房、Bの暗闇の牛車のパニック、Cの明け方の帰還をご覧いただきます。いかがでしょうか。

「ColBase」(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-1566?locale=ja)をもとに作成

「夜討ち」という、闇の中でのテロ行為がもたらすパニックとその収束を、人々の行動がこのように雄弁に物語っている絵巻が、この軍記物語絵巻の傑作『平治物語絵巻』です。しかしそれにもかかわらず、夜の闇と炎がもたらす光と陰影は、全く画面には描かれていないのです。

日本の絵巻はなぜか夜の闇を描きません。それでは代わりにどのような表現の工夫が絵のモチーフや詞書の文中でなされているのでしょうか。このことについて考えるためには、当時の絵巻の鑑賞の方法や、絵巻作品中の夜を表象するモチーフ、また和歌を始めとする文学作品中の表現について調べる必要があります。

しかしそれだけでは新しい発見の手がかりは得られないかもしれません。新しい手がかりを得るためには、当時の実際の社会では、また日記などの記録の中のことばとしては、夜の闇はどのように捉えられているものなのかを調べる必要があると思い、Web版「史料纂集」と「群書類従」の利用を始めました。

利用はまだ始めたばかりですが、便利な機能とおすすめの検索方法、それから最後に、検索中に感じた一次史料検索の面白さについて、少しお示ししたいと思います。

研究利用のヒント 何を検索するのか:書名一覧と書誌情報

検索をする時、まずは画面の右上にある「本棚:書名一覧へ」をクリックして、所収史料を確認します。所収史料がいつの時代のものか、どの立場の人物が書いた日記か、どのくらいの分量があるのか、をざっと把握しておきます。私の場合は、絵巻が数多く制作された時期や、絵巻制作に関与した人物などを知るうえで重要な古記録である『明月記』『勘仲記』『公衡公記』『花園天皇宸記』などが気になります。書名のみの一覧は詳細一覧と切り替えることができ、「『花園天皇宸記』とは何なのか?」「書籍版では何冊あるのか?」などがひと目で分かります。

「史料纂集」は、タイトルを見ると難しい気がいたしますし、実際難しいのですが、ふと思いついて、Web版「史料纂集第1期」の書誌情報から、12人の日記筆者の生没年と、「史料纂集第1期」収載分の日記の期間を西暦で一覧にしてみました。

日記の最初の年、「重明親王は14歳、藤原行成は19歳、藤原頼長は16歳、定家は18歳……」こうすると、「史料纂集第1期」の12人の筆者の多くが、大学生の皆さんと変わらない年齢から書き始めたことが分かります。さまざまな時代のさまざまな立場の青年たちが書き始めた、そして何十年も続いた日々の記録を、辞書を引きながら自由に検索できるのです。

工具書を手元に置きながら、それでは「史料纂集」の検索を始めてみましょう。

研究利用のヒント 「夜」の「眠り」:キーワード検索とフィルタリング検索

キーワード検索

それでは検索を始めます。まずはシンプルに「夜」。「史料纂集第1期」では本文と標出で実に5,602件がヒットしました。総量を確認した後で、一文字加えてみます。「入夜」に絞ると78件です。スニペットをおおまかに確認すると、「入夜」という語は、筆者自身を含む、人々が暗くなってから移動する際や、夜に病状が変化した際、夜に火災が発生した際などに用いられるようです。また、「終夜」は200件で、雨や雪が一晩中やまない、誰かと一晩中語り明かす、夜中じゅう体調が悪かった、徹夜の宴席に参加したといった記事が多いようです。

日記筆者たちの、眠る以外の夜の過ごし方の典型が、ここにある程度出たことになるでしょうか。ここでふと、院政期に作られた絵巻『病草紙』の中で、夜の家の中でひっそりと病の症状に苦しむ人々を描いている場面があることが思い起こされました。

こうした海に網を放るようなざっくりとした把握がしやすいのも、ジャパンナレッジの検索結果画面の特長です。Web版「群書類従」の検索の便利さ、見やすさそのままに、「史料纂集」の全文を検索することができます。

では、続いて「眠り」についても検索してみます。眠ることを示す語を検索してみましょう。いつ寝たのかということを彼らは日記に日常的には書かないようなのですが、それでも「就寝」という語を検索すると、全10件がヒットします。

そのうち2件が『花園天皇宸記』で、「深更就寝」と「天明就寝」でした。夜更けに寝た。夜明けに寝た。おや、これは少し面白いかもしれない。漢字を変えて同じ語を検索してみましょう。「着寝」で検索します。すると、計39件がヒット。何とそのうちの37件が、『花園天皇宸記』の用例で、いずれも徹夜をしたあとに明け方から眠る際に使われていました。残りの2件は『台記』で、こちらも藤原頼長が徹夜をしています。

このように、少なくともWeb版「史料纂集第1期」の中では『花園天皇宸記』に特徴的らしい「夜更かし」の記録のための語を見つけました。いつかこの絵巻や音楽や和歌を好んだ人物の、就寝・起床時間の分析をしておくことも面白いかもしれない、などというアイデアが生まれます。

また、「夜」に「花」を見る例はないだろうかと「and 検索」をしたところ、あの有名な『明月記』治承4年(1180)2月14日の眠れぬ夜の青年定家の立ち上る梅の香りと翻る炎の記録がヒットしたことも付け加えておきます。

Web版「史料纂集第1期」、『明月記 1』 142ページ(治承4年(1180)2月14日)

フィルタリング検索・ナレッジサーチャー

次に、Web版「群書類従」「史料纂集」について、とても便利だと感じた機能を2つご紹介します。1つ目は「not検索」、フィルタリング検索ができるということです。これで日記の各筆者の日常の中で、どういった語彙が、どういった状況や行為、時間帯に対して用いられるのか、という大まかな傾向を効率よく知ることができます。

その例として「闇」という語を検索してみます。まずは「群書類従」を検索してみましょう。561件がヒットしました。ところがスニペットを見ていると、たまにおかしな言葉が含まれるものがありました。「該当ページを開く」をクリックすると、「阿闍梨」の「闍」がよく見ると「闇」になっているのです。

こうした刊行当時の植字のミスであっても、ジャパンナレッジでは忠実にテキスト化されているために、検索結果に「阿闍梨」というノイズワードが含まれることになってしまいました。さて、こんなケースではフィルタリング機能が役に立ちます。「闇」を「含む」が「阿闇」は「含まない」という設定で検索し直してみましょう。

すると、16件あったらしい「阿闍梨」の誤植が弾かれた、本当の「闇」の検索結果545件が無事に表示されました。このフィルタリングができるかどうかで、ストレスと作業スピードが大きく変わってきます。他のフルテキストデータベースでは案外ない機能ですので、ありがたいと思いました。

では「闇」という語の分布状況を見てみましょう。画面の左側に一覧表示されています。和歌が最多の121件。次いで雑部88件、神祇部45件です。

和歌の用例を調べたい時には通常は『新編国歌大観』を引きますが、「群書類従」には和歌部がありますから、「闇」を詠む和歌の用例をまとめて確認することができます。検索画面を省略しますが、ざっと見てみますと、「まどう心の闇」や「春の闇」「五月闇」「むばたまの闇」「月夜に対する闇夜」など、実に豊かな闇の表現の世界が広がっていることが分かります。

高校時代の古文の時間に覚えた『古今和歌集』の凡河内躬恒の春の歌「春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やは隠るる」を思い出す方もいるでしょうし、『後撰和歌集』の藤原兼輔の「人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道にまどひぬるかな」を思い出される方もいるでしょうか。

では「史料纂集第1期」を検索してみましょう。こちらでは「闇」が302件がヒットしました。すると「諒闇(りょうあん)」という言葉が圧倒的に多くヒットするようです。「諒闇」とはなんでしょうか?ここで2つ目の便利な機能「ナレッジサーチャー」を使ってみましょう。

「ナレッジサーチャー」とは、史料の中に出てきた分からない言葉をなぞって選択するだけで、自動的に検索してくれる機能です。検索してみると、「諒闇」は天皇が父母の喪に服すことを指す言葉であることが分かりました。どうもざっと見ても、夜の闇を指すことはないようです。

このことを検索で確かめてみましょう。サブ検索欄で「次を含まない」を選び、「諒闇」をフィルタリングします。すると10件が残り、そのうち8件は、表記は異なりますが、やはり諒闇を示すものでした。つまり、我々のような、また『古今和歌集』の「春の夜の闇はあやなし」といったような「夜の闇」という言語表現の感覚が、日記の中ではあまり用いられないということが確認できました。

さて、今の検索結果の残る2件も夜の闇を指すものではありませんでしたが、一応メモしておこうと思います。

今までならページに、しおりを挟んで複写申請書を書いてコピーし、ファイリングするかスキャンをするかして保存しておく必要がありました。ですが、ジャパンナレッジならこの保存も簡単で、スニペット表示をオフにしてから、手元に残しておきたい検索結果を、コピーアンドペーストしてExcelシートやWord文書に貼っておけば、ハイパーリンクつきのリストができます。そしてジャパンナレッジにログインした状態でこのリンクをクリックすると、「史料纂集」の紙面にそのままジャンプします。

こうしてリスト化しておいて、スキマ時間にスマホで少しずつ紙面をチェックしていくことも可能です。これはとても便利だと感じました。

また、検索作業中は、同じようにExcelシートなどで、検索を済ませた語のまとめも作っておくことをおすすめします。

研究利用のヒント ふと出会う明け方の風景:ランダム検索

最後に、「明け方」の記録を検索していた途中に感じた、一次史料検索の面白さについてご紹介したいと思います。「明け方」の記録の検索中のことです。まずはさまざまな「明け方」の呼び方を、先述(連載第3回)の「調べたい意味の語に句点をつける」方法でリストアップしてから、「史料纂集」で一つずつ検索してみました。

「天明、後朝、晨朝、黎明、暁、暁更、明暁、払暁、暁方、至暁、曙、鶏鳴、今朝、暁月……。」それぞれがどのような場合に用いられるかを、スニペットでざっと確認します。

「うーん…「晨朝」は2件で仏事。「鶏鳴」は39件で、用例は多くない語句、早朝に家を出たことを記す際に使われる例が目立つようだ」、「そうするとたしか、『西行物語絵巻』の諸本の中に、出家を決意した西行が早朝に家を抜け出してお寺に行く場面で、鶏を描いたものがあったはずだ……」などと、気になる点をどんどんメモしていきます。

データベース検索は、じっくり一件ずつを検討するより、スニペットをざくざくと確認するのに向いていると思います。この作業は、インターネットブラウザにジャパンナレッジのタブを2つ出しておいて、一つのタブでは調べたい語をリストアップし、一つのタブでは「史料纂集」の検索画面を出しておくというようにするとさらに効率がよいです。

するとふと、和歌の表現では朝を表すのに最もよく使用する「有明」という語が、日記類には全く用いられないのだということに気がつきました。念のため東京大学史料編纂所の古記録フルテキストデータベースを検索しても同じです。文学作品のようなロマンティックな有明の別れの思い出を期待していたわけではありませんが、少しがっかりしました。

ところがリストアップした語を順番に検索して「暁月」という語を検索した時、たった3件見つかった『勘仲記』の文永11年(1274)5月23日、建治2年(1276)12月14日、弘安9年(1286)7月21日の記事が私をわくわくさせました。ここに書かれた「暁月」はいずれも、和歌にも説話にも残らなかった、けれども大変印象深い、一人の宮仕えの学者が見聞きした、美しい明け方の月の光景だったからです。

Web版「史料纂集第1期」、『勘仲記 4 』292ページ(弘安9年(1286)7月21日)

「史料纂集」のデータベース検索の面白いところは、偶然の出会いの機会を多く持つことができること、そして、和歌や物語とは異なる、現実の人間の日記の中の日常を自由に浮かび上がらせることができることです。データベースは古典文学研究の新しい扉といえるのではないのでしょうか。まだご紹介したい例はいくつもありますが、できればぜひ、実際に利用して、その楽しさを試していただければと思います。ありがとうございました。

終わりに

図書館総合フォーラム「文献調査が変わる!研究者が極意を伝授『ジャパンナレッジ版 史料纂集・群書類従』」の内容をお届けする本連載は、今回が最終回となります。Web版「史料纂集」「群書類従」の特長、そして教育や研究の場でどのように活用できるのかご紹介してまいりました。本連載が「史料纂集」「群書類従」に興味を持っていただくきっかけとなりましたら幸いです。

冒頭でもご紹介しましたが、Web版「史料纂集第2期」が2024年1月にリリースされました。Web版「史料纂集」は全6期を予定しています。第3期以降も順次リリースを予定しておりますので、どうぞご期待ください。

第1期 古記録編 平安・鎌倉・南北朝 2023年1月10日リリース済み
第2期 古記録編 室町・戦国①②③ 2024年1月10日リリース済み
第3期 古記録編 室町・戦国④⑤⑥ 未定
第4期 古文書編①② 未定
第5期 古記録編 江戸①②③ 未定
第6期 補遺 未定

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