医療系情報

Wiley Digital Archives王立内科医協会アーカイブ-魅力あふれるコンテンツ その5

2020.05.21
Royal College of Physicians

近代医学を形成した物語の一部をご紹介する5回目です。各々の物語は、歴史を形成し、後に続く我々すべてのためとなる看護の質-そして生活の質-に根本的に影響を与えてきました。

これらの物語、そしてその他の物語について、王立内科医協会(Royal College of Physicians)アーカイブから学ぶことができます。

Wiley Digital Archives王立内科医協会アーカイブ-魅力あふれるコンテンツ その1(はじめてのワクチン)
Wiley Digital Archives王立内科医協会アーカイブ-魅力あふれるコンテンツ その2(医学の歴史)
Wiley Digital Archives王立内科医協会アーカイブ-魅力あふれるコンテンツ その3(医学における女性)
Wiley Digital Archives王立内科医協会アーカイブ-魅力あふれるコンテンツ その4(人体解剖学)

Wileyサイト:https://www.wileydigitalarchives.com/rcp/
紀伊國屋書店サイト:https://mirai.kinokuniya.co.jp/catalog/royal-college-of-physicians/

20世紀における「砲弾ショック」と「心的外傷後ストレス障害」

活用分野

心理学、精神医学、生物学、医療人類学、解剖学、医学倫理、英国史、公衆衛生、保健教育、科学・医学史、健康における社会的要因、医学研究、その他の歴史研究

歴史的背景

心的外傷後ストレス障害(PTSD)、もしくはその前身「砲弾ショック」(shell shock)が第一次世界大戦勃発後にはじめて発生した現象であることは、今日広く知られています。戦時中の弾薬や爆薬の規模や死線が増し、砲撃の常設が戦争の主要素となると、兵士たちは、明らかな身体的要因がない様々な状態を抱えて塹壕から帰還しました。最初は「戦争神経症」(war neurosis)「戦闘ストレス」(combat stress)「兵士の心臓」(soldier’s heart)と呼ばれていた砲弾ショックは、麻痺、神経障害、パニック発作や不食、不眠などの不規則な行動を含む帰還兵士に見られた、一見不可解な一連の症状が特徴的でした。

この数年間の最初の医学的症例報告は、周知の知識や、当時の感情という文脈において疾病を理解しようとする努力を示しており、いかなる種類の精神的なトラウマとの関連性が見いだせない、説明のつかない心臓障害として分類されました。そうしなければ、「正常な」患者の心理状態に疑問を呈することは、精神疾患を「弱体化した体質」(weak degeneratig constitutions)―国のために戦っている強くも勇敢でも健康でもない男性―にのみ適用するとした、当時広く受け入れられていた文化的な信念に干渉しかねませんでした。

その結果として、これらの兵士たちへの治療には、いかなる心理分析治療も含まれず、むしろ主観的強度を改善するための身体的健康を取り戻すことに焦点が当てられました。最悪の場合、適用された「治療」は、全く治療的なものではなく、電気痙攣療法や、いわゆる精神病院への収容といった、事実上懲戒的で、後に広く議論の的となったものが含まれました。

The Interpretation of the Pulsations in the Jugular

The Interpretation of the Pulsations in the Jugular Veins. Polygraph Charts.
Mackenzie, James, 1889–1945. Wiley Digital Archives.

ジェームズ・マッケンジー卿(Sir James Mackenzie)は、スコットランドの心臓専門医で心臓の鼓動の研究のパイオニアです。

マッケンジーが有名な理由

王立内科医協会のフェローであり、高い評価を受けていたジェームズ・マッケンジーは、第一次世界大戦中に兵士を治療するために招集された多くの医師の1人でした。王立診療所に雇われる前、エジンバラで医学を学び、バーンリーで一般診療を行いました。そこで、健康と病気における心臓の動きに関する多くの既存概念に革命をもたらす結論に達しました。

彼がもたらした多くの成果の最初のものは、心臓の状態を把握するためにするために、初めて動脈と静脈の脈動を同時に記録したことで、この手順は、その後の多くの研究の基礎となりました。また、マッケンジーは、心臓の運動量の問題に注目し、心筋のエネルギーに関する研究への道を拓きました。

第一次世界大戦中、マッケンジーは陸軍心臓病院(Military Heart Hospital)の顧問となり、そこで、心的外傷後ストレス障害の兵士を、それが何であるかを正確に理解しないまま治療します。マッケンジーは、戦争神経症と心的外傷後ストレス障害を「兵士の心臓」(Soldiers’ Heart)と呼び、極度の疲労とストレスといった肉体的負担を伴う戦時中の実際の状況が人体を弱体化させ、有毒なバクテリアに適した環境を提供すると考えました。そして、それが疲労状態であり、心臓の異常に起因するものではなく、中枢神経系への損傷の結果であると信じました。

マッケンジーは、心臓への負担を減らし、治癒を促進するために屋外での遊戯や運動、娯楽活動を勧めました。

Sir James Mackenzie, 1853-1925

Sir James Mackenzie, 1853-1925. Source: American College of Surgeons, facs.org.

王立内科医協会アーカイブに含まれる関連コレクション&特別コレクション

ジェームズ・マッケンジー卿の調査の症例、精神疾患基準・定義関連報告書、19世紀における精神疾患の一般的な方法を述べた文書、精神疾患の頻度に関する研究、ジョージ3世の病に関して論じた医師間の書簡 他

情報源: https://www.britannica.com/biography/James-Mackenzie

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(資料提供Wiley)