人文社会系研究

19世紀英国の演劇・音楽・文学に見る ⾼級⽂化と⼤衆⽂化の交差

2020.08.06

世界有数の図書館、公文書館等が所蔵する19世紀の貴重な資料から史料的価値の高いものをデジタル化して提供するデータベース、Nineteenth Century Collections Online (NCCO)。今回は、“British Theater, Music and Literature

をご紹介します。

記事の最後には、シェイクスピアに関する記事を収録したコレクションもご紹介します。

高級文化と大衆文化の交差 演劇、音楽、文学

本アーカイブは、演劇、音楽、文学を主題とします。演劇や音楽では、特にその興行面に焦点が当てられます。

【演劇】
イギリスでは1737年に演劇検閲法が制定され、戯曲は検閲の対象となり、正統劇(科白劇)は勅許劇場でのみ上演が認められるようになりました。これにより多くの劇場は閉鎖に追い込まれ、劇作家はその道を断たれ、小説家に転向した例もみられます。勅許劇場による正統劇の独占は1843年の劇場規制法制定により解消されましたが、戯曲の検閲は1986年まで続きました。

新作演劇にとっては厳しい時代でしたが、演出面では、古典劇に新風を吹き込み、視覚効果を狙った斬新な演出が流行ります。また、勅許劇場以外の劇場ではメロドラマやパントマイムが一世を風靡しました。

本アーカイブでは、演劇検閲法の制定前後をイギリス演劇史の転換期とみなし、18世紀半ばまで遡って収録資料を選定しました。勅許劇場の一つ、ドルリー・レーン劇場で上演された戯曲、検閲に当たった宮内長官に提出された戯曲、演劇プログラムの他、劇場の収支報告書のような演劇社会史の資料も収録しています。

【音楽】
19世紀のイギリスは見るべき作曲家をほとんど輩出しませんでしたが、演奏会や音楽批評は盛んに行なわれていました。モーツァルトからヴァーグナーまで18、19世紀の作曲家は演奏の地を求めてイギリスに渡っています。

多くの曲を海外の作曲家に委嘱し、演奏会が盛んだった19世紀イギリスは、王侯貴族から市民のための音楽へと変貌したプロセスをみる上で格好のケーススタディを提供します。本アーカイブでは、演奏会プログラムや音楽関係者の書簡を多数収録します。

【文学】
本アーカイブでは、ロマン派からヴィクトリア朝文学までの、通常のイギリス文学史では言及されることが少ない領域の文学資料を収録します。一つはペニー・ドレッドフル(三文怪奇小説)、もう一つはブロードサイド・バラッドです。どちらも作者は無名ながら、民衆の世界で生き長らえてきた想像力の産物です。

工業化や都市化の進む19世紀イギリスで、近代以前の伝統的な物語や口承文学が根強い人気を得ていたことは、19世紀イギリス文学史を見直す視点を提供するだけでなく、文化史、社会史研究の新しい地平を開拓する機会にもなるでしょう。

演劇 収録コレクションと概要

Drury Lane under Sheridan, 1776-1812: Manuscript Plays and Correspondence
(シェリダン時代のドルリー・レーン劇場:劇作品手稿と書簡)

リチャード・ブリンズリー・シェリダンが支配人を務めた期間に、ドルリー・レーン劇場に提出された130篇の劇作品と4篇の書簡を収録します。

収録劇作品の作者

 リチャード・ブリンズリー・シェリダン
(Richard Brinsley Sheridan)
 ウィリアム・ウェザーバーン(William Wetherburn)
 エリザベス・インチボルド(Elizabeth Inchbald)  メアリ・ロビンソン(Mary Robinson)
 ベンジャミン・トンプソン(Benjamin Thompson)  フレデリック・レイノルズ(Frederic Reynolds)
 ジェイムズ・コブ(James Cobb)  ジョン・バンブラ(John Vanbrugh)
 チャールズ・ラム(Charles Lamb)  トーマス・ムーア(Thomas Moore)
 ジョン・チャモック(John Chamock)  サミュエル・ジャクソン・プラット
(Samuel Jackson Pratt)
 フランシス・ワイマン(Francis Wyman)  ジェシー・フット(Jesse Foot)
 ジョゼフ・ベントレー(Joseph Bentley)  トーマス・イングペン(Thomas Ingpen)
 ウィリアム・プロストン(William Proston)  トーマス・シェリダン(Thomas Sheridan)
 ジェイムズ・ウィリアム・バレット
(James William Barrett)
 ウィリアム・ヤング(William Young)
 ジャン・フランソワ・マルモンテル
(Jean François Marmontel)
 フランセス・シェリダン(Frances Sheridan)
 ウィリアム・ホガース(William Hogarth)  アンドリュー・フランクリン(Andrew Franklin)
 アンソニー・デイヴィッドソン
(Anthony Davidson)
 トーマス・オニール(Thomas O’Neill)
 メアリー・オブライエン(Mary O’Brien)  ジョン・カントン(John Canton)
 ジョン・オキーフ(John O’Keefe)  アレクサンダー・ドノヴァン(Alexander Donovan)
 アン・ホッブズ(Ann Hobbs)  ロバート・ロビンソン(Robert Robinson)
 ジョン・パトシャル(John Patteshull)  

Lord Chamberlain’s Plays(宮内長官戯曲集)

1737年に演劇検閲法が施行された後、上演を目的とした戯曲は検閲の対象として宮内長官(Lord Chamberlain)に提出されました。これらの戯曲のうち、1824年から検閲が廃止される1968年までのものは大英図書館の近代文芸手稿コレクションの一部として、1743年から1824年までのものはハンティントン図書館に所蔵されています。
本コレクションは大英図書館所蔵資料から、1824年から1899年までに提出された作品を収録します。

18世紀末から19世紀前半の演劇においては、演技の微妙な陰影よりも視覚効果を狙った演出が流行りました。また、増大する都市労働者向けの娯楽として、勅許劇場以外の劇場では、メロドラマ性、奇抜さ、視覚的効果を狙った大衆受けする演劇が大流行します。1843年の劇場規制法制定により、正統劇が勅許劇場以外でも上演可能になったものの、それ以後の演劇は、大衆演劇的要素が勅許劇場を巻き込む形で進んでいきました。

ミドルクラスや大衆向けには、メロドラマが流行しました。異国趣味に訴えるもの、航海劇、酒に溺れた親に育てられる子どもの困窮を描くもの、冤罪に陥った主人公が名誉を回復する筋立てのドラマ、愛国心に訴える軍事劇、観客の身近な話題をモチーフとする家庭ドラマなど、様々なタイプのものが上演されました。これらはある意味で20世紀の映画やテレビドラマの先駆とみなすこともできます。

航海劇で一世を風靡したエドワード・フィッツボールの『さまよえるオランダ人』

収録劇作品の作者

  ギルバート・アボット・ア・ベケット
(Gilbert Abbott À Beckett)
  ジェームズ・ケニー(James Kenney)
  ジョアンナ・ベイリー(Joanna Baillie)   ジェームズ・シェリダン・ノウルズ
(James Sheridan Knowles)
  トマス・ヘインズ・ベイリー
(Thomas Haynes Bayly)
  ジョン・ウェストランド・マーストン
(John Westland Marston)
  ディオン・ブーシコー(Dion Boucicault)   ジョン・オクセンフォード(John Oxenford)
  ジョン・ボールドウィン・バックストーン
(John Baldwin Buckstone)
  ウィリアム・トマス・モンクリーフ
(William Thomas Moncrieff)
  ヘンリー・バイロン(Henry J. Byron)   ジョン・マディソン・モートン
(John Maddison Morton)
  ジョゼフ・スターリング・コイン
(Joseph Stirling Coyne)
  リチャード・ブリンスリー・ピーク
(Richard Brinsley Peake)
  チャールズ・ディブディン
(Charles Dibdin the Younger)
  ジョージ・ディブディン・ピット(George Dibdin Pitt)
  トマス・ディブディン(Thomas Dibdin)   アイザック・ポーコック(Isaac Pocock)
  エドワード・フィッツボール(Edward Fitzball)   ウィリアム・レマン・リード(William Leman Rede)
  キャサリン・ゴア(Catherine Gore)   トマス・ウィリアム・ロバートソン
(Thomas William Robertson)
  コリン・ヘンリー・ヘイズルウッド
(Colin Henry Hazlewood)
  ジョン・パルグレイブ・シンプソン
(John Palgrave Simpson)
  ダグラス・ジェロルド(Douglas Jerrold)   トム・テイラー(Tom Taylor)

Drury Lane Theatre Archive(ドルリー・レーン劇場資料集成)

1879年ドルリー・レーン劇場の支配人となったオーガスタス・ハリス(Augustus Harris)は、大衆が求めるエンターテインメントを提供するプロデューサーとして類まれな才能を持っていました。

ハリスが支配人になったのと同じ頃、作曲家のオスカー・バレット(Oscar Barrett)もドルリー・レーン劇場に関わり始めます。バレットは、自身や他の作曲家の音楽劇用楽曲を蒐集、これが、大英図書館が所蔵するドルリー・レーン音楽資料アーカイブの基礎をなします。

収録されている楽譜は、バレットの広い活動範囲を反映し、ドルリー・レーンの演目用楽曲だけでなく、ロンドンのその他の劇場(ライシアム、クリスタル・パレス、ロイヤル・グレシアン、ガイエティ、ブリタニア、ボロー、ストラトフォードなど)や地方劇場で上演されたものも含みます。

ヴィクトリア朝期のイギリスでは、パントマイム、バレエ、バーレスク、オペレッタなど、音楽を伴う大衆演劇が大流行しましたが、20世紀のミュージカルの源流にも位置づけられる後期ヴィクトリア朝音楽劇で使われた楽曲の全貌が、本コレクションによって明らかにされます。
また、楽譜だけでなく、楽曲が提供された演目名、上演時期、劇場、作曲者、音楽パートの概要などをまとめた解題(アノテーション)も収録されています。

British Playbills, 1754-1882(演劇プログラム集)

1754年から1882年までに上演された演劇プログラム(ビラ)約22,000点を収録します。収録プログラムは、ほとんどがドルリー・レーン、コヴェント・ガーデン、ヘイマーケットの勅許劇場で上演されたものです。イギリスの伝統ある三大劇場の上演史を研究する上で格好の資料集です。

Drury Lane Receipts(ドルリー・レーン劇場収入報告書集成)/English Stage after the Restoration, 1733-1822(王政復古以後の英国劇場)

ドルリー・レーン劇場、コヴェント・ガーデン劇場、ヘイマーケット劇場の会計収支報告書を収録します。

音楽 収録コレクションと概要

Crystal Palace Handel Triennial(クリスタル・パレス ヘンデル・トリエンナーレプログラム集成)

19世紀のロンドンでは、大陸の有名作曲家の初演を含む多くのコンサートが開催されました。中でも、3年に1回、クリスタル・パレスで開催されたヘンデル・フェスティヴァル(ヘンデル・トリエンナーレ)は19世紀ロンドンの音楽シーンを語る上で欠かすことができません。

プログラムには、合唱曲の歌詞、オーケストラの奏者、合唱者、名誉幹事、運営会社役員など、関係者の名前が掲載されているほか、女性読者を対象にした様々な商品広告(コルセット、家具、装身具、ピアノなどの楽器)も掲載されています。ソリストや演奏に対する観客の反応が書き込まれている点も注目に値します。本コレクションでは、1874年、1877年、1880年、1883年、1888年、1894年、1897年、1900年の8回のプログラムを収録します。

Crystal Palace Saturday Concerts(クリスタル・パレス土曜コンサート資料)

クリスタル・パレス土曜コンサートは、ヘンデル・トリエンナーレと並ぶ19世紀ロンドンの名物コンサートです。交響曲や管弦楽曲が多くの聴衆の前で演奏され、これらの作品の普及に大きく貢献しました。本コレクションではこの土曜コンサートのプログラムを収録します。

プログラムには、ジョージ・グローブ(George Grove)やドイツ出身の指揮者、アウグスト・マンス(August Manns)による楽曲解説が掲載されており、音楽の教養を求めるヴィクトリア朝のミドルクラスの人々にとって、格好の教科書となりました。グローブが書いた解説記事は、彼が編集し、19世紀後半に刊行された音楽辞典(Dictionary of Music and Musicians)の基礎をなしました。音楽史、出版史の両面において価値のある資料です。

プログラムには演奏会関連記事のほか、クリスタル・パレスで開催された各種展覧会や講演会の情報も掲載されており、ヴィクトリア朝期の文化活動の一端を窺い知る上で興味深い資料です。

King’s Theatre Haymarket Archive(ヘイマーケット劇場資料集成)

ロンドンにおけるイタリア・オペラのメッカ、ヘイマーケット劇場で演奏されたオペラの楽譜(声楽譜とオーケストラパート譜)を収録します。その大半が、実際に演奏された際に使用されたもので、名前、日付、テンポ、舞台への指示などが書き込まれているものや、劇場関係者のカリカチュアが描かれているものもあります。

オーケストラパート譜には奏者の名前が記入されています。19世紀ロンドンのオペラ上演史の貴重な研究資料です。

Royal Philharmonic Society Archive/Royal Philharmonic Society Music Manuscripts
(ロイヤル・フィルハーモニー協会資料集成)

フィルハーモニー協会は、オーケストラによる演奏会の開催を通じてクラシック音楽を普及させることを目的に、1813年に設立、100年目の1912年に現在の名称に変更されます。

17世紀以降、イギリスでは演奏会が盛んに開催されていましたが、フィルハーモニー協会はそれらと異なり、同時代の作曲家の作品を積極的に取り入れました。作曲依頼などを通じて同時代の作曲家との交流の機会が増え、作曲家、演奏家、批評家など同時代の音楽関係者との往復書簡等、多数の資料が集まりました。特に、第九交響曲をめぐるベートーヴェンとの交流は有名です。

楽譜、書簡、議事録などから構成されたフィルハーモニー協会のアーカイブは、19世紀から20世紀後半にいたるクラシック音楽の知られざる一面に光を当てます。

書簡が収録されている作曲家

 アルベニス(Isaac Albéniz)  ホルスト(Gustav Holst)
 バントック(Granville Bantock)  コダーイ(Zoltán Kodály)
 バックス(Arnold Bax)  リスト(Franz Liszt)
 ベルリオーズ(Hector Berlioz)  メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn)
 ブラームス(Johannes Brahms)  ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov)
 ブリテン(Benjamin Britten)  ロッシーニ(Gioachino Rossini)
 ブルッフ(Max Bruch)  サン=サーンス(Camille Saint-Saëns)
 ブゾーニ(Ferruccio Busoni)  シベリウス(Jean Sibelius)
 クレメンティ(Muzio Clementi)  スマイス(Ethel Smyth)
 コールリッジ=テイラー
(Samuel Coleridge-Taylor)
 シュポーア(Louis Spohr)
 ドビュッシー(Claude Debussy)  ステイナー(John Stainer)
 ドリーブ(Léo Delibes)  スタンフォード(Charles Villiers Stanford)
 ディーリアス(Frederick Delius)  リヒャルト・シュトラウス(Richard Strauss)
 ドボルザーク(Dvořák)  チャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky)
 エルガー(Edward Elgar)  ティペット(Michael Tippett)
 グノー(Charles Gounod)  ワーグナー(Richard Wagner)
 グリーグ(Edvard Grieg)  ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven)

(ベートーヴェンの書簡は写真複製版をデジタル化したものです。その他のものは原本よりデジタル化されています。)

JW Davison Papers(ジェイムズ・ウィリアム・デヴィッドソン資料集成)

ジェイムズ・ウィリアム・デヴィッドソンは19世紀イギリスを代表する音楽批評家で、1843年以降亡くなる1885年まで『ミュージカル・ワールド』の編集長を務め、1845年から1878年までタイムズ紙の音楽批評欄に定期的に寄稿、その他、『ペル・メル・ガゼット』『サタデイ・レビュー』などでも健筆を揮いました。

本コレクションでは、デヴィッドソンが作曲家、演奏家、批評家、ジャーナリスト、音楽出版関係者、コンサート運営関係者、家族などと交わした往復書簡を収録します。大半は、デヴィッドソンが受け取った書簡ですが、彼自身が書いた書簡も含まれます。書簡の他、新聞記事の切抜、写真も収められています。

書簡を交わした著名人物には、作曲家のジャコモ・マイアーベーア(Giacomo Meyerbeer)、セザール・フランク(César Franck)、音楽出版者のジョン・ブーシー(John Boosey)、指揮者のチャールズ・ハレ(Charles Hallé)、ヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒム(Joseph Joachim)、批評家のジョージ・グローブ(George Grove)らがいます。

Queen’s Hall Programmes(クィーンズ・ホール コンサートプログラム集成)

優れた音響効果によりロンドン有数のコンサート会場に数えられたクィーンズ・ホール(1893年創立)の名物プログラム、プロムナード・コンサートは、低価格で広く大衆に音楽を広めることを目的として、1895年に始まりました。聴衆は飲食したり、散歩したりと、寛いだ雰囲気の中で音楽を楽しむことができました。1941年の火災でホールが焼失した後は、ロイヤル・アルバート・ホールに引き継がれ、今日に至っています。

本コレクションはクィーンズ・ホールで開催されたコンサートプログラムを収録しますが、その大半は1897年から1914年までの18シーズンに開催されたものです。ベートーヴェン、ブラームス、ワーグナー、チャイコフスキーなど、19世紀の音楽がプログラムの中核をなしていますが、20世紀初頭の同時代の音楽やイギリスの音楽も盛んに取り上げられています。収録プログラムには、楽曲や社会的・歴史的背景に関する詳細な解説の他、演奏を聴いた聴衆によるコメントも書き込まれています。

20世紀初頭のロンドン市民の音楽体験を歴史的に再現してくれる貴重な資料です。

Royal Albert Hall(ロイヤル・アルバート・ホール コンサートプログラム集成)

ロイヤル・アルバート・ホールで開催された19世紀末のコンサートの中から、ハリソン氏モーニング/イヴニングコンサート(5回)、オラトリオ・コンサート(2回)、スコットランド・フェスティヴァル(4回)、アイリッシュ・フェスティヴァル(3回)のプログラムを収録します。

St James Hall Monday/Saturday Popular Concerts(セント・ジェイムズ・ホール月曜・土曜ポピュラー・コンサートプログラム集成)

ヘンデル・トリエンナーレ、クリスタル・パレス土曜コンサートと並ぶ、19世紀ロンドンの名物コンサート、セント・ジェイムズ・ホール月曜・土曜ポピュラー・コンサートのプログラムを収録します。

Sir George Smart Papers/Sir George Smart Programmes/Oratorio Concert Programmes(ジョージ・スマート資料・コンサートプログラム集成)

ジョージ・スマートは19世紀イギリスを代表する指揮者、作曲家で、フィルハーモニー協会の創立メンバー、ベートーヴェン作品の普及にも貢献しました。彼が指揮したコンサートプログラム(オラトリオ・コンサート、地方コンサートなど)、往復書簡、日記などを収録します。コンサートプログラムには、スマート自身の注釈が詳細に書き込まれています。書簡は、スマートの広い交友範囲を反映し、同時代の多くの作曲家、演奏家、歌手、批評家とのあいだで交わされています。

訪欧時の日記には、1825年に彼がバーデンでベートーヴェンと面会し、インタビューを行ない、交響曲のテンポについて助言を得たことが記述されています。

Wandering Minstrels Archive(放浪楽団資料集成)

ヴィクトリア朝の放浪楽団”Wandering Minstrels”の運営記録、写真、コンサートプログラムなどを収録します。この楽団は、貴族や軍人のアマチュアからなり、1860年代から40年間に亘り、主に慈善の目的でイギリス各地を訪問し、演奏活動を行ないました。

Konzert Programm Austausch(コンサート・プログラム情報)

ドイツの老舗楽譜出版社、ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社(Breitkopf & Härtel)は1893年、『コンサートプログラム情報(Konzert-Programm-Austausch)』の刊行を始めました。大学、出版社、新聞社、コンサートホールなど、音楽の教育、普及に携わる様々な機関に対し、世界各地のコンサート情報を提供することを目的とした定期刊行物です。毎年36分冊が発行され、毎回50から100件のプログラム情報が掲載されました。大都市だけでなく、中小都市のコンサート情報をも掲載しており、音楽関係者は、本誌を通して各地の音楽トレンド、指揮者、ソロ歌手、ソロ演奏家の動向を知ることができました。現代における録音や放送と同様の役割を果たしたメディアと言えるでしょう。

本コレクションでは、1900年から1914年までに発行されたものを収録します。

文学資料 収録コレクションと概要

Popular Literature in 18th and 19th Century Britain, Parts Three-Ten: The Barry Ono Collection of Bloods and Penny Dreadfuls(バリー・オノ ペニー・ドレッドフル コレクション)

ペニー・ドレッドフル(三文怪奇小説)は、盗賊、海賊、犯罪者、吸血鬼などを登場人物とする扇情的な物語で、19世紀イギリスで大衆向けの安価な読み物として流行しました。

技術革新による製造コストの低廉化、印紙税の廃止、都市化と識字率の向上に伴う読書する大衆の登場と、需要・供給両面の変化によって可能になった新しいタイプの読み物です。1830年代に「ブラッズ(Bloods)」と呼ばれていた頃は、印刷も劣悪で、挿絵の木版画も再利用された粗野なものでしたが、その後多色刷りになり、完成度も向上しました。当初は児童から大人まで広範な読者層を対象にしましたが、1860年代までに児童をターゲットに絞るようになり、世紀末にはアメリカのダイムノベルの仕様を取り入れるようになります。

本コレクションでは、大英図書館が所蔵するバリー・オノのコレクションから603点の書籍と雑誌や新聞に掲載された3,152件の作品を収録します。
バリー・オノ、本名フレデリック・ヴァレンティン・ハリソン(Frederick Valentine Harrison、1876–1941)は、ミュージックホールの俳優で、少年のころ愛読したペニー・ドレッドフルを蒐集、死後大英図書館に寄贈されました。元々安価な紙に印刷され、製本が劣悪なため、損傷を受けやすかったことに加え、その価値が認められるのに時間がかかったペニー・ドレッドフルは、現存しているものが極めて少ないのが現状です。大英図書館が所蔵するバリー・オノのコレクションは、その意味で貴重です。

ペニー・ドレッドフルは、出版社の特定が難しく、発行日や版も明確ではなく、匿名やペンネームで書かれ、作品間の模倣も多く、挿絵には署名や日付もなく再利用されたことが多く、その書誌は混沌としています。本コレクションは、未開拓の部分が多いペニー・ドレッドフルの研究に新しい光を当てます。

ペニー・ドレッドフルの代表的ヒーロー、義賊ジャック・シェパード(Jack Sheppard)

Popular Literature in 18th and 19th Century Britain, Part Two: The Sabine Baring-Gould and Thomas Crampton Collections(サバイン・ベアリング=グールド、トマス・クランプトン ブロードサイド・バラッドコレクション)

ブロードサイドとは、大判の紙に片面刷りで世の中の出来事を伝えた古いメディアで、新聞の先祖とも言われています。そのテクストが節回しをもって唄われる場合、ブロードサイド・バラッドと呼ばれます。

ブロードサイド・バラッドは、文字を読めない大衆のためのメディアとして長い伝統を持ち、その起源は近代以前に遡ります。チャップブックの流行と相まって18世紀に一旦廃れたものの、産業化と都市化の道を突き進んでいた19世紀に俄かに復活します。犯罪、裁判、貧困、政治、スキャンダルなど幅広いトピックを取り上げましたが、公開処刑場で売られていた、死刑執行前の囚人の最後の告白が特に有名です。
このメディアには多くの出版社が関わりましたが、中でもロンドンのスラム地帯、セブンダイアルズ界隈を拠点としたジェイムズ・キャトナック(James Catnach)とジョン・ピッツ(John Pitts)は、ブロードサイド・バラッドの歴史の中で忘れることができません。

ブロードサイド・バラッドの書誌情報を整備し、研究することは困難を極めます。どのような聴衆が聴いたのか、どんな出来事がテクストの形成を促したのかなど、ブロードサイド・バラッドには未解決のテーマが多数残っています。本コレクションは、今後のブロードサイド・バラッド研究の出発点になるでしょう。

ネルソン提督(Horatio Nelson)のような国民的英雄も頻繁に取り上げられました

Archives of the Royal Literary Fund(王立文芸基金資料集)

文芸基金(Literary Fund)は、困窮状態にある才能ある作家を経済的に支援することを目的として1790年に設立されました。1845年には英国王室から勅許状を得、”royal”を冠するようになります。

基金から支援を受けた作家:著名な作家から無名作家まで、多数に上ります。
サミュエル・テーラー・コールリッジ(Samuel Taylor Coleridge)、 ジェームズ・ホッグ(James Hogg)、ジョン・クレア(John Clare)、ジョゼフ・コンラッド(Joseph Conrad)、ブラム・ストーカー(Bram Stoker)、D.H. ロレンス(D.H. Lawrence)、ジェームズ・ジョイス(James Joyce) 他

基金の委員:
チャールズ・ディケンズ(Charles Dickens)、サッカレー(William Makepeace Thackeray)、アンソニー・トロロープ(Anthony Trollope) 他

本コレクションは、1790年から1918年までのあいだに基金に提出された申請状約3,000件を収録します。作家自身や他の作家が署名した申請状のほか、他の作家の推薦状、決定に関わった役員の書簡、作家の受領書などが収録されています。経済的困窮、病気、災難に直面している作家の状況を率直に伝える資料として、作家の生涯に新しい光を当てます。

エドマンド・ゴスの署名のあるコンラッドの申請状。困窮の原因欄に「遅筆と作品への低い評価」(Slowness of Composition and Want Public Appreciation)と書かれています。

検索例

【検索例1:ディオン・ブーシコー(Dion Boucicault)】

作品、著者、検閲当局に作品を申請した日、上演予定劇場、上演予定日、申請者、脚本家、翻案者、作曲家、キーワードなどをまとめた解題(Note)が作品毎に付されており、検索可能です。そのため、ブーシコーが原作者だけでなく、翻案者である戯曲もヒットします。

画面左:解題

【検索例2:ベートーヴェン(Beethoven)】

フィルター機能を使用すると記事の種類、言語、主題、収録コレクション毎に検索結果の絞込みができます。この機能を活用すると、ベートーヴェンが亡くなる直前の様子といった特定の時期の史料を探す事も可能です。

“Beethoven”で検索し、画面右の”Filter Your Results”から資料の発行日を指定します。

亡くなる一週間前(1827年3月18日)にベートーヴェンからモシェレス宛に出された手紙がヒットしました。
解題からは秘書シントラーの手によるものであることや、メトロノームによる第九交響曲の速度表記が記入されていることが分かります。


文学、演劇、音楽の世界でのシェイクスピア受容

ロマン派の時代に文学、演劇、音楽の世界でシェイクスピアが盛んに受容された当時の状況を伝えるコレクションが収録されています。

Popular Literature in 18th and 19th Century Britain, Parts Three-Ten: The Barry Ono Collection of Bloods and Penny Dreadfuls
(バリー・オノ ペニー・ドレッドフル コレクション)


Stories from Shakespeare’s plays. No. 1-12
左:表紙 中央:ハムレット挿絵 左:マクベス挿絵

British Playbills, 1754-1882(演劇プログラム集)


A collection of playbills from Drury Lane Theatre, 1780-1785
1783年ハムレットのプログラム

Archives of the Royal Literary Fund(王立文芸基金資料集)

シェイクスピアの贋作で知られるWilliam Henry Irelandの資料
王立文芸基金のJames Bland Burges、Henry Pye 、Dr. Richard Valpy はIrelandの贋作をシェイクスピアの作品であると認めると書かれている。

Lord Chamberlain’s Plays(宮内長官戯曲集)


Lord Chamberlain’s Plays, April – June 1854
画面左:解題 

Royal Philharmonic Society Music Manuscripts(ロイヤル・フィルハーモニー協会資料集成)

The Tempest
左:表紙 右:楽譜

Royal Philharmonic Society Archive(ロイヤル・フィルハーモニー協会資料集成)


Philharmonic Society. Eighty-Second Season, Analytical and Historical Programme of the Second Concert, Wednesday Evening, Mar. 14, 1894

本アーカイブに収録される演劇、音楽、文学の資料から、高級文化と大衆文化の交差という、すぐれて20世紀的な文化の姿が見えてきます。19世紀文化を歴史的に再現するだけでなく、20世紀文化の起源をも垣間見せてくれます。

(センゲージ ラーニング株式会社)

センゲージ ラーニング株式会社サイトはこちら
紀伊國屋書店サイトはこちら
お問い合わせはこちら