図書館をつくる

OCLC News 第73号

2024.08.20
OCLC logo

OCLC News 第73号

商品情報をはじめ、OCLCに関する様々な情報をご案内致します。
第73号は前回に引き続きリンクトデータ特集を含む夏休み拡大号です!

目次

―OCLCのリーダーたちが知見や経験を共有するブログ Next より―
図書館のリンクトデータ推進におけるOCLCの役割

メアリー・サウアー=ゲームズ
2024年7月16日

ひとつの組織が特定の技術を取り入れるという決断が、その分野の他のすべての人々に大きな影響を与えることがあります。例えば、1995年に公開された『トイ・ストーリー』は、全編CGIで制作された初の長編映画であり、ピクサーはアニメーション映画の新たな基準を築きました。CGIはそれ以前にも使われていましたが、ピクサーの手法が成功したことで、他のアニメスタジオもこの技術をより迅速かつ全面的に採用するようになりました。

私たちは現在、まさにこのような瞬間に立ち会っています。リンクトデータを取り入れた運用ワークフローの転換は、図書館が世界最大のメタデータ供給源であるWorldCatへのデータ作成、管理、改善方法を一変させるでしょう。この変化を支持するOCLCの戦略は、その何千ものメンバーからの支援と相まって世界中の図書館従事者にとって重要な出来事です。

過去2回の投稿で、ジェフ・ミクスターはリンクトデータ入門と、図書館がより影響力を発揮するためにリンクトデータがどう役立つかについての考察をご提供しました。その両方において、彼はこの分野でOCLCが持っている計画のいくつかに触れ、この話題についての卓越した概要を提供してくれました。今回の投稿で取り上げるのは、最新の方針説明書「Linked data: the future of library cataloging」でより詳しく述べられている、リンクトデータに対する私たちの取り組みの大要です。

リンクトデータの未来に向けたOCLCの取り組み

OCLCは、20年以上にわたってリンクトデータの研究をリードしてきました。こうした背景は、私たちが行うすべての決定 (大規模で戦略的なもの、そして機能レベルのオプションの両方) が、OCLCのスタッフとコミュニティのメンバー双方によるこれまでの多くの考察に基づいていることを意味します。セマンティックウェブ技術の可能性についての初期の探求的研究は、図書館データシステムの既存の枠組みの中でどのようにそれらを適用できるかを把握することに重点を置いていました。これらのプログラムを通して得られた洞察は、今年1月に展開されたWorldCatへのリンクトデータ要素の統合など、今日の開発の基礎となりました。

しかし、リンクトデータ技術は単に書誌データベースを強化するだけでなく、より統合された、よりアクセスしやすい知識のエコシステムを構築するものです。これは、今日のサービスを改善するだけでなく、より大きく、より大胆に考えるということです。図書館内やキャンパス内の孤立したデータサイロの間に橋を渡し、グローバルにアクセス可能なリソースを結びつけることです。リンクトデータを通じて、図書館コレクションの可視性を高め、個人、著作、場所、組織、出来事、トピック間の文脈的関係を充実させて、利用者の好奇心を満たす旅に対して情報豊かな風景を提供することができます。

私たちはまた、図書館員がこの技術の利点と課題について熱心に学んでいることも知っています。リンクトデータは良い変化をもたらします。しかし、良い変化であっても、図書館員や図書館のワークフローにとっては困難な場合もあります。ワークショップ、セミナー、共同プロジェクトを通じて、私たちは指導と支援を提供し、リンクトデータの価値を説明、実証することで、あらゆる規模とタイプの図書館がリンクトデータをより利用しやすくなるよう支援します。

なぜ-規模に応じた-協力が重要なのか

相互運用性と共有に重点を置いたリンクトデータは、OCLCの協働の精神に必然的に適合しています。メンバーである図書館は、それぞれの状況や業務フローにとって合理的な方法でリンクトデータを採用し、それぞれのペースで進めることができます。小規模な図書館の場合、特定のローカルコレクションにWorldCatの実体情報を追加することで、より発見しやすくすることができますし、大規模な機関の場合、BIBFRAMEのようなリンクトデータモデルを使った積極的な目録作成をより迅速に始めることができます。

WorldCat EntitiesによるリンクトデータでWorldCatを強化したことで、私たちは既存の目録を動的で相互接続された資源へと変貌させました。WorldCat Entitiesは、OCLC WorldCatをベースにした所蔵コレクションの可視性と発見可能性の向上のような形でその他の既存相互接続サービスと連携します。

WorldCatは、世界中の図書館が発見とアクセスを強化するための拠り所としており、国際的に図書館のメタデータが連携できるという決定的な証拠となっています。… WorldCatを活用することで、図書館のリンクトデータ採用をより迅速に、そしてすべての図書館にとって有益な方法で進めることができるのです。

既にWorldCatの共同構築と維持に参加している図書館にとって、その恩恵はすでに今日ここにあり、今後もその恩恵は続くでしょう。

目録作成、発見、図書館管理のための統合戦略

OCLCにとってリンクトデータとは、豊富で相互接続された情報ネットワークを構築することであり、デジタル時代における図書館の役割を再定義するために図書館のワークフローに幅広く取り入れるものです。

このプロセスは、リンクトデータ技術を支えるメタデータの標準化と実践から始まります。例えば、WorldCatオントロジーは、リンクトデータが既存のMARC目録、BIBFRAMEデータ、そして博物館、文書館、研究管理システムで使用されているような他の外部データモデルとどのように連携することができるのかについて、重要で基本的な定義を提供しています。これは、図書館がどのように機能するかを念頭に置いて構築された戦略ですが、より広範なパートナーとの接続をサポートするための柔軟性が加えられています。

私たちはさらに、図書館がリンクトデータへ移行する事を支援するために設計された、さまざまなサービスやリソースを開発しています。その中には、データ強化のための新しいプラットフォーム (WorldCat Entities)、データリンクのためのサービス (OCLC Meridian)、図書館がリンクトデータをより効果的に管理・共有するための方法 (Record Managerやその他のメタデータ管理サービスとの統合) などが含まれます。

MARCの長期的役割

リンクトデータの未来を受容する一方で、OCLCはMARCおよびその他の固定データフォーマットを継続する重要性を認識しています。私たちがリンクトデータを主導することで、MARCベースのシステムを補完・強化し、図書館データの豊かな遺産を尊重しつつ、将来の革新への道を開くような複合的なアプローチを可能にすることをお約束します。このバランスの取れたアプローチにより、図書館はそれぞれのペースで移行し、既存のデータの価値を維持しながら、新しいリンクトデータ技術を徐々に統合していくことが可能となります。

リンクトデータへの移行は、画一的な解決策を必要としません。OCLCは、基本的なリンクトデータの概念を紹介する小規模な活動から、より包括的なプログラミングの統合まで、図書館がそれぞれの状況に最も適した方法で参加できるように、さまざまなレベルの取り組みをお手伝いします。システムの完全な見直しを迫られることなく、図書館がどのようにリンクトデータを試したり学んだりするかについて柔軟性を提供することで、よりスムーズで管理しやすいリンクトデータ採用プロセスが促進されます。

私たちの戦略は、図書館がちょっとした最初の一歩からすぐに効果を実感できるよう支援します。そうすることで、信頼が生まれ、さらなる探求と採用が後押しされます。このアプローチは、新技術の採用に伴うリスクを軽減し、リソースが限られている図書館がリンクトデータ業務への統合開始をより現実的なものにします。

私たちは、図書館がリンクトデータそれ自体を目的とするのではなく、提供するサービスを強化し、利用者の満足度を向上させ、運営効率を高めるための手段として考えることを奨励しています。リンクトデータについて戦略的に考えることで、図書館はこれらの技術を有益で、達成可能で、経済的に実行可能な方法で統合することができます。

一緒に前へ進む

私たちのリンクトデータへの取り組みは、図書館職員の業務効率を向上させながら、世界中の図書館利用者にとって、図書館サービスをより相互接続された、アクセスしやすい、便利なものにしたいという願望によって推進されています。

ここで覚えておくべき重要なことは、リンクトデータへの移行は単に技術的なアップグレードだけではないということです。それは、図書館が貢献者として評価されるような、より発見しやすく、協力的でダイナミックな知識のエコシステムへの根本的なシフトです。この変化に参加することで、図書館は自らの運営を向上させるだけでなく、より情報に富んだつながりのある世界を作るという、より広い目標に寄与することができるのです。

リンクトデータによって、図書館目録はもはや単なるレコードで満たされたデータベースではなく、生きた知の網の目における拠点となるのです。

当記事の詳細はこちらから
目次へ戻る

―OCLCのリーダーたちが知見や経験を共有するブログ Next より―
Choreo Insightsで分析データを行動に反映: より多くの情報に基づいて蔵書収集に関する意思決定を行うための知見活用

ソハイブ・ベイグ
2024年7月 31日

 

「イスラム法に関する本は何冊あるのだろう?」

これは、イスラム法制史に関するデジタル化プロジェクトの可能性をブレインストーミングしているときに、同僚から投げかけられた素朴な質問です。図書館員でない人にとっては、「調べればわかる」ことのように思えるかもしれません。しかし、あなたも私も知っているように、その種の分析は単純な質問から始まるだけで、データ分析、タイトルの重複カウント、異版、多言語の考慮など、より複雑な問題へと枝分かれしていきます。

そこで私は、Choreo Insightsというツールを使って、北米の図書館を調査してみることにしました。調査結果の詳細については、イスラム法ブログで別途公開しましたが、今日はそのプロセスについてもっと話したいと思います。

全体を定義し、細部を探る

私が使用した情報源は、蔵書構成、シェアードプリント、その他の管理目的用にOCLCが開発した分析ツール、Choreo Insightsです。WorldCatから直接データにアクセスすることで、図書館の蔵書を分析・比較することができます。

このツールを使い始めた当初、私は「大きな数字」を目指したいと思っていました。図書館に所蔵されているイスラム法の全テキストの合計に近いもの、あるいは少なくともその手始めとなるものです。そこで、WorldCatに所蔵を登録している北米の大規模な図書館14館 (検索で一致した所蔵数の多い順に): ハーバード大学、米国議会図書館、プリンストン大学、イェール大学、コロンビア大学、ニューヨーク大学、カリフォルニア大学バークレー校、ミシガン大学、スタンフォード大学、ペンシルバニア大学、UCLA、シカゴ大学、コーネル大学、マギル大学を選びました。

FAST標目フィルターで「イスラム法」を検索し、上記すべての図書館を横断検索したところ、個別のタイトル46, 032件がヒットしました。

さて、これは明らかに当初の質問に対する完璧な答えではありません。しかし、より詳しく具体的な調査を行うための「共同管理コレクション」が提供されたと考えればは悪くないです。

共同管理コレクションを見るさまざまな視点

この初期リストができたら、自分の研究分野において何が重要なのかに基づいた調査を始めることができます。そして、個人的に興味があることにも。私は以下の調査に進みました。

  • 言語トップ5 (アラビア語, 英語, ペルシャ語, インドネシア語, ウルドゥー語)
  • 出版国 (エジプト, レバノン, イラン, サウジアラビア, インドネシア)
  • 19-21世紀に渡る出版年

これらのクエリは実に興味深い結果をもたらしました!例えば、ウルドゥー語やトルコ語などの言語と比較して、インドネシア語のイスラム法に関するタイトルが比較的多いことが明らかになりました。また、タイトルの約65%が1990年以降に出版されたものであることも分かりました。これは私の予測を裏付けるもので、この主題を持つ図書館蔵書の増加は、北米の大学における研究分野としてのイスラム法の発展と一致しているのです。

タイトル数 vs. 所蔵数

もう少し掘り下げてみると、もうひとつ興味深いことが分かりました。過半数のタイトル(前述の46,032件のうち30,671件)がアラビア語で出版されているにもかかわらず、最も人気のあるタイトルは圧倒的に英語で出版されたもので、そのうちのいくつかはWorldCat全体で500以上の図書館が所蔵していたのです。イスラム法に関する最も人気のあるアラビア語のタイトルは、257の図書館が所蔵しているのみで、100以上の図書館が所蔵しているタイトルはわずかでした。他の言語については、その数はさらに限られていました。

さらに私にとって興味深かったのは、アラビア語で出版された著作の著者がすべて中世の著者であり、現代の学者による著作ではないことでした。これはまた、西洋におけるイスラム法学研究の発展と一致するもので、現代の著者は主に北米や英語圏の読者に向けて出版しているのです。

知見に基づく行動

指定した主題について、多数の大規模学術図書館の蔵書情報を簡単に調査できる機能は、非常に便利であることが分かりました。以前であれば、このような調査を行うには、APIを使用するか、多くのクエリを実行し、それらを整理してまとめる必要がありました。その作業はどちらも専門知識が必要なものです。このツールはとても簡単に使うことができ、スプレッドシートに出力することで、Excelを使ってさらに結果を追求することができました。

私の調査データは、このテーマに関する “すべて “を表しているわけではありませんが、以下に挙げるようないくつかの結論と提言を示すには十分です。

  • レバノン、エジプト、イラン、サウジアラビアを出版国とする蔵書が最も多く、これらの出版物はイスラム法研究の大部分を占めている。蔵書の多様化を目指す図書館員は、特にアフリカ、南・東南アジア、中央アジア、トルコ、バルカン半島など、他の地域の資料を探すとよいでしょう。
  • これらの所蔵資料の大半は、出版後30年程度しか経過していません。その事は、20世紀前半やそれ以前に出版された資料に注意を向けるきっかけとなります。これらの資料は、紙や構造の性質上、物理的な損傷を受けやすく、所在を特定するのも容易ではありません。これらの資料は、各図書館内でも、シェアードプリントプロセスの中でも、最優先で保存されるべきものです。
  • このデータによって、デジタル化の優先順位もより明確になります。この情報を、HathiTrustArabic Collections Onlineなどのデジタルコレクションにあるイスラム法資料と比較することで、まだデジタル化されていないタイトルを確認することができます。

こうした実用的な知見を得るための努力はとても大切です。なぜなら、どんなに素晴らしい新しい知識があっても、それを活用できなければ意味がないからです。

可能性の高い結果を伴う不可能な質問

当初は回答不可能な質問で、今もおそらくそうなのでしょうが、そこから非常に有益な情報を得ることができました。大規模なグループやコンソーシアムであれば、「共同管理コレクションを活用」するために協力して物事を行えるのは確かですが、Choreo Insightsのようなツールを使えば、個人の研究者、教育者、目録担当者、蔵書構成専門家の誰であっても、役に立つ戦略のアイデアを得るために、素早く容易に以下の事を調べることができます。

  • あなたの図書館にしかないもの–そしておそらく保存とデジタル化にとって重要なもの
  • 言語、出版年、出版国に基づいた蔵書の多様性
  • あなたにとって理想のプログラムを実施している図書館、または共同研究やリソース共有の機会を広げられそうな図書館との比較
  • 授業に必要な教材が揃っているかを確認 (Choreoの検索条件にあるCIPコードを使用)

研究や蔵書構成の新たな可能性を追求する上で、素晴らしい方法です。私たち自身の経験や、会議での興味深い質問に基づくだけでなく、共有された膨大な量の図書館メタデータに裏打ちされているのですから。

当記事の詳細はこちらから
目次へ戻る

―OCLC ResearchのブログHanging Togetherより―
図書館を超えた図書館

2024年6月5

ブライアン・ラボイエ
レベッカ・ブライアントとリチャード・アーバンとの共同執筆投稿

前方に合流” Wikimedia Commonsより

研究図書館は、過去30年間で大きく変化しました。かつての図書館は、外部から購入した資料を地域の利用者が利用できるようにする「アウトサイド・イン」のコレクションを管理することに主眼を置いていました。これは研究図書館にとって十分理解された役割であり、大学管理者、他の学内組織、教授陣や学生を含む図書館の利害関係者によって認識され、評価されたものでした。この蔵書提供に重点を置いた使命を遂行する上で、図書館は蔵書関連サービスの主たる提供者として、学内では多かれ少なかれ自律的に機能してきました。もちろん、研究図書館は蔵書管理の特定の側面、特にリソースの共有や共同目録作業などの支援において、他の図書館と協力して活動していました。

今日でも図書館は、主に地域の利用者が利用するための重要な地域コレクションを管理していますが、その孤立性は弱まり、ネットワークとのつながりは強まっています。シェアード・プリント・プログラム、共同管理コレクション、「インサイド・アウト」コレクション (デジタル化された自館特別コレクション、電子学位論文 (ETD)、研究データセットなど) を思い浮かべてください。同時に図書館は、研究支援サービスの拡大を通じて、大学研究事業への関与を強めており、機関リポジトリ、研究データ管理 (RDM)、研究者プロフィールや研究情報管理を通じた機関評判管理、計量文献学やリサーチインパクトサービスなどの分野で新たな責任を担っています。これらの分野での活動は、意思決定支援など、研究機関のニーズや優先事項と密接に連携し、直接的に推進されることが多いものです。

OCLC Researchは、共同管理コレクション進化する学術記録研究支援サービスなどに関する調査を通じて、このような変化を記録してきました。この研究により、私たちは以下2つの事に気づきました。

  1. 図書館は、研究支援の新たな分野における新しい責務に取り組むため、学内の他の部門との協力関係をますます深化させている。 

  2. 学内を横断するパートナーシップの中で遂行されるこれらの新しい責務の多くは、図書館の役割、貢献、バリュープロポジション (提供価値) が明確に定義されておらず、他の学内関係者からも認識されていない

多くの場合、図書館が学内の他部局と形成しているパートナーシップは新しく、その場限りのものであり、時には実験的なものです。また、役割、責任、管理組織、さらには関係するパートナーでさえも流動的であることが多く、機関によってまちまちです。ただし、より正式な取り決めが生まれている例も見られます (これについては後述します)。今後、図書館がこのような学内を横断するパートナーシップに参加するには、以下のようなことが必要になると思われます。 

  1. 大学の研究活動を支援するために、図書館と他の学内組織との連携を正式かつ円滑にする新たな運営体制
  2. このような新しい運営構造の中で明示される図書館のバリュープロポジションの明確化

 図書館外へ図書館を拡張する 

このような新しい運営構造とバリュープロポジションの出現は、私たちが「図書館を超えた図書館」と呼ぶものの基礎となっています。研究図書館は、図書館ヒエラルキーの枠を超えた新しい運営構造に取り組んでいます。これらの新しい構造を通して、図書館はその技量、専門知識、サービス、役割を図書館の枠を超えて、教育機関の他の部門と協力しながら、より広い学内環境へと広げています。図書館がこのような新しい経路を通じて機関の優先事項を支援する際には、図書館の新たな役割や責任に馴染みのない学内関係者に、複雑さを増すバリュープロポジションを伝える方法を見つける必要があります。

「図書館を超えた図書館」の概念モデルは、社会的相互運用性に関するOCLCのこれまでの研究と密接に対応しています。私たちは、社会的相互運用性を、コラボレーション、コミュニケーション、相互理解を促進するような、個人や組織単位を超えた作業関係の創造と維持と定義しています。多くの点で、社会的相互運用性は、図書館がますます関与するようになってきている強固な組織横断的パートナーシップをサポートするのに欠かせない「対人スキル」を強化することです。このトピックに関する私たちの研究は、研究支援サービスの展開と維持という観点から、図書館と他の学内組織との間の社会的相互運用性を向上させる必要性を浮き彫りにしました。

しかし、学内を横断する場当たり的なパートナーシップは、新たな運営構造へと成熟しつつあります。この意味で、「図書館を超えた図書館」とは、社会的相互運用性を増幅させるものであり、個人的な関係を超えて、特定の個人の在職期間よりも長い、より正式なつながりへと移行するものです。また、一時的でプロジェクトに重点を置いた目標に基づいて構築されたパートナーシップから、教育機関の運営構造の一部となる、より永続的な取り決めへと移行するものです。

「図書館を超えた図書館」は、図書館内部の組織構造の変化について述べたものではありません。これらは進化を続けています(例えば、図書館の組織構造に関するIthaka S+Rの報告書は、研究支援における図書館の能力と地位の拡大について強力な証拠を示しています)。しかし、図書館のサービスや専門知識が、図書館以外の組織と協力しながら、図書館の枠を超え、キャンパス全体へと広がっていくような、発展的な運営構造については、あまり認識されておらず、文書化もされていないようです。多くの研究図書館は、新たな役割、責任、組織の優先事項の中で使命を遂行するために、このような構造がますます重要であることに気づくでしょう。

このような変化にうまく対応することは、図書館にとって重要な戦略的かつリスク管理的な検討事項です。これを怠ると、リソース、影響力、支配力が低下し、他の機関にとってますます不透明なバリュープロポジションとなる可能性があります。このことを考慮すると、図書館を図書館の外に広げることは、私たちが観察するだけでなく、継続的な図書館の可視性と影響力を確保するための戦略として助言することでもあります。

図書館を超えた図書館の例 

まだ始まったばかりのことではありますが、図書館と他の学内組織を巻き込んだ新しい運営体制が生まれた例もあります。

  • ウォータールー大学図書館は、図書館の業績を測定し、研究機関の指導者に分析を提供するだけでなく、研究分析に関する全学的な実践コミュニティのリーダーとしての役割も果たす、Bibliometrics and Research (BRI=計量書誌学を使ったリサーチインパクト分析) 司書を採用しました。このリーダー的役割を通じて、BRI司書は、研究分析ツールを使用する他の学内部門に相談や専門的指導を提供し、機関の他部門を巻き込み、図書館の専門知識と影響力を拡大する新しい運営体制を活用しています。 
  • アムステルダム国立美術館の研究支援部門の責任者であり、アムステルダム国立美術館研究図書館の主任司書でもあるサスキア・シェルトヤンスは、2016年に同機関に加わり、研究支援部門を新設し、既存の複数の部門を統合しました。その結果、研究支援部門は研究図書館を中心に構築され、デジタル化されたコレクション、デジタル学術活動、デジタル知識の生産と共有、デジタル学習とコミュニケーションが、世界的に有名な物理コレクションと一体となって機能するようになりました。サスキアは、いかに「図書館が図書館以上の存在である必要があったか」を説明し、図書館は現在、従来の図書館コレクションを超えてサービスと専門知識を拡張する、新しい「基本的ハイブリッド・リアリティ」の中心となっています。
  • マンチェスター大学では、オープンリサーチオフィス (OOR)を新設し、図書館の研究支援における役割とリーダーシップを拡大しています。この新しい組織は、よりオープンで信頼性の高い研究環境を構築するという大学の戦略的目標を支援するもので、OORのウェブサイトでは、研究者が図書館だけでなく学内の他の組織が提供するサービスに接続するための窓口を一本化しています。図書館は、学内の開かれた研究活動の中心に、そしてリーダーとして位置づけられています。このようなオープンリサーチ組織を持つ英国の機関はマンチェスター大学が初めてのようですが、他の機関も同様の方向に進んでいます。例えば、最近シェフィールド大学も新しいオープンリサーチ・スカラシップ・オフィスの責任者を募集しています。
  • モンタナ州立大学では、図書館と図書館以外の研究支援部門で構成される新しいリサーチ・アライアンス (研究連携組織) が図書館に併設されています。このパートナーシップには、図書館が提供する学術コミュニケーションやデータ管理に加え、研究開発、リサーチサイバーインフラストラクチャー、学士課程研究の非図書館部門が含まれています。各組織は既存の学内ヒエラルキーの中でそれぞれの位置を維持していますが、図書館は運営上、大学の研究支援のハブとして位置づけられています。 
  • イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校では、図書館が研究情報管理システム (RIMS) を管理しており、研究担当副総長室の財政的支援を受けています。図書館は、学内の学術記録台帳を管理することで、書誌メタデータに関する専門知識を拡張し、図書館のコレクションだけでなく、教授陣のプロフィール、特許、業績、研究施設・設備なども管理し、学内の他関係者が管理するデータを組み合わせてナレッジグラフを作成することで、企業レベルの戦略的方向性を示し、専門知識を発見可能にし、組織の評判管理を支援しています。

以下の例は、「図書館を超えた図書館」概念モデルの2つの大きな特徴を反映しています。

  • 図書館が研究支援サービスを提供するために関与しているパートナーシップは、図書館と図書館外の組織の能力を組み合わせた新たな運営構造へと公式な形で統合されました。この新しい運営形態は、伝統的な管理上の境界を越え、図書館を含む学内の様々な部局が支援提供に貢献していることを反映したものです。
  • 新しい組織では、図書館のバリュープロポジションと組織の優先事項が緊密に結びつけられています。例えば、マンチェスター大学のオープン・リサーチ・オフィスは、「大学はオープン・リサーチの原則を支持しており、研究者は研究ライフサイクル全体を通してこれらの原則を適用することが奨励されている」と強調しています。原則への賛同は任意ですが、大学は研究者が資金提供者の要請に従って行動することを期待している」と強調しています。同様に、モンタナ州立大学のリサーチ・アライアンスは、「大学の研究活動を支援し、その卓越性を高めるために協力する」ことを目的として、学内の各部局を結集していることを明らかにしています。これらの組織に対する図書館の貢献は、組織の主な優先事項に照らして明確化されています。

次のステップ 

図書館を超えた図書館は、OCLCの新しい研究プロジェクトの中心です。私たちの目標は、モデルや例を通して、図書館の運営構造やバリュープロポジションにおける重要な変化について説明、解説することです。また、これらの変化に関する図書館の将来の方向性についての評価を提供し、可能であれば、データ、ツール、および他の種類の運営インフラとの相違点や好機を提案します。

この研究は、OCLCにおける研究支援(特に研究データ管理)に関する過去の研究に基づいており、図書館を超えた図書館を下支えする傾向を観察してきました。しかし、私たちは、図書館のバリュープロポジションの新たな明確化とともに、新たな運営構造として正式化された学内横断的なパートナーシップという主題が、図書館にとって戦略的に関心のある他の分野にも拡張できると信じています。

OCLC リサーチライブラリーパートナーシップ機関はご協力を

私たちの取り組みをお知らせするため、6月17日の週OCLC研究図書館パートナーシップ (RLP) リーダーシップ・ラウンドテーブルの一環として、研究支援に関する招待ディスカッションを開催します。RLP 加盟館は、どのように他のキャンパス関係者と協力し、研究支援サービスを提供しているのかについて話し合います。参加者は、以下について検討するよう求められています。 *このディスカッションは終了しています。

  • 大学の優先課題を受け、図書館の研究支援サービスはどのように進化していますか?
  • 研究支援分野における組織や図書館の目標を達成するために、図書館は他の学内関係者とどのように協力していますか? 
  • 研究支援における学内横断的なパートナーシップは、新たな運営体制につながりましたか、あるいはつながる予定ですか? 

RLP リーダーシップ円卓会議は、パートナー機関が情報を共有し、サービスや目標を評価する機会を提供すると同時に、OCLC Researchが情報を統合し、より広範な図書館コミュニティと共有する機会を提供します。参加者は、RLP機関パートナー代表者の推薦が必要です。研究支援に関するRLPリーダーシップ円卓会議は、計量書誌学およびリサーチインパクトサービスの提供における現在の実践と課題について議論するため、3月に初めて開催されました。この会合には4カ国のRLPメンバー機関33機関から51名が参加し、議論のハイライトは最近の投稿にまとめられています。

私たちは、図書館とその将来にとってどのような意味があるのかを探求し続ける中で、この投稿にあるアイデアを洗練させ、拡大するのに役立つであろうこの討論会に、すべてのRLPパートナー機関からの参加を奨励しています。前回の円卓会議と同様、私たちはより広範な図書館コミュニティのためにブログの投稿で会話を統合する予定です。推薦や参加についてご質問がある方は、レベッカ・ブライアントまでご連絡ください。皆様のご参加をお待ちしております!

当記事の詳細はこちらから
目次へ戻る

-OCLC ResearchのブログHanging Togetherより-
IDEAの推進: 包括性、多様性、公平性、アクセシビリティ、2024年7月23日

メリリー・プロフィット
2024年7月23日

Photo by Nic Rosenau on Unsplash

図書館業界で精神疾患について話すこと

モーガン・ロンディネリは、彼女の書いた「What’s Missing in Conversations about Libraries and Mental Illness (図書館と精神疾患についての会話に欠けているもの)」 (オープンアクセス・ジャーナル『In the Library with the Lead Pipe』2024年6月19日掲載)の中で、自身の精神疾患の経験と、それが利用者との交流にどのような影響を与えているかを語っています。公共図書館で働くロンディネリは、「私は、私と同様に、症状を隠すのがとても上手な利用者と接しています。また、社会的に明らかな精神疾患の兆候を示す利用者とも接しています」。パンデミックによってメンタルヘルスの意識が高まったとはいえ、精神疾患の多様性と社会で機能する能力はしばしば誤解されてきました。ロンディネリは、精神疾患を持つ図書館員に焦点を当てた図書館の文献は限られていると指摘しています。

同僚にはわからないような精神衛生上の問題を持つ司書も含め、障害を持つ司書についての議論はIDEAの重要な部分です。私の個人的な経験から、このトピックに関する文献やプログラムはここ数年で確かに増えてきていると思います。ALAの「Mental Health Resources in Libraries」のウェブページには、利用者、職員、その両方をサポートするための資料が掲載されています。職員向けの資料の多くは、ストレスや不安に関するもので、精神疾患の一部であったり、一時的な状況対応であったりします。2024年6月に開催された RBMS (米国の大学・研究図書館協会の貴重書・特別コレクション分科会) の会議に参加した際、会議全体を通して短いストレッチや瞑想セッション、シラキュース大学の図書館情報学プログラムを卒業したばかりのレベッカ・デイビスさんがリーダーを務めるディスカッション・グループ「レジリエンスを育む: 図書館員の幸福のための戦略」など、セルフケアのトピックがアジェンダに含まれていたことを嬉しく思いました。「仕事のせいでストレスが溜まっています」というような感情的な反応を明かすことは、精神疾患を公表することとは異なり、精神疾患を持つ人に対するスティグマ(否定的烙印)は、非常に現実的な懸念事項です。私は、ロンディネリが自分の精神疾患について公表した勇気と自信を賞賛します。彼女が書いたような勇敢な記事が、定期的な会議プログラムのトピックとしての図書館員のメンタルヘルスと相まって、私たちが 「図書館員は大丈夫ではない」と言うことにもっと慣れていけば、より多くの議論と受け入れのための扉を開く助けとなるでしょう。寄稿:ケイト・ジェームズ

TIEとヘリック地方図書館による障害者プライド月間の資料

1990年7月、米国のジョージ・H・W・ブッシュ大統領は「障害を持つアメリカ人法」に署名しました。この画期的な法律を記念して、米国では毎年7月に「障害者プライド月間」が設けられています。ALAの大学図書館・研究図書館協会 (ACRL) のブログ「Toward Inclusive Excellence (TIE) (インクルーシブ・エクセレンスを目指して)」は、図書館、特に高等教育に携わる図書館に特定せず、重要な考え方や取り組みについての情報を提供するための多様な資料を集めています。「Commemorating Disability Pride Month with TIE and Choice Content (障害者プライド月間を記念したTIEとChoiceのコンテンツ)」では、障害者の権利、歴史、包括性に関する書評、ウェビナー、その他の資料を集めています。また、ミシガン州ホランドのヘリック地方図書館 (OCLCシンボル: EGH) は、障害者プライド月刊の推奨図書として、子供や若者向けの50以上のタイトルから成る有用なリストをまとめており、収書展開の提案としても役立ちます。

ヘリック地方図書館のリストとTIEブログの組み合わせにより、障害者プライド月間に合わせて、子供向けの絵本から学術的な情報まで、さまざまな資料が紹介されています。このイベントは米国で始まりましたが、世界各地に広がっています。同様に、引用された資料は、国際的な障害者包括性を代表するものであり、図書館内外のアクセシビリティを考慮した、幅広い障害を対象としたものです。寄稿:ジェイ・ウェイツ

先住民寄宿学校ナショナルデジタルアーカイブ

WBUR (ボストンの公共ラジオ局) の番組「Here and Now」は、5月に開設された「National Indian Boarding School Digital Archive (先住民寄宿学校のナショナルデジタルアーカイブ)」を特集しました。ディーパ・フェルナンデスは、米国先住民寄宿学校救済連合(National Native American Boarding School Healing Coalition:NABS)のデジタルアーカイブ暫定管理者であるファロン・キャリーにインタビューを行いました。NABSは、1869年の米国連邦寄宿学校政策によってアメリカ先住民およびアラスカ先住民に与えられたトラウマに対処する手段として、2012年に設立されました。先住民の子供たちが家族から強制的に引き離され、通わされた「寄宿学校」は、連邦政府の資金援助を受けて500校以上ありました。キャリーはインタビューの中で、この強制的な家族からの引き離しを誘拐も同然とし、先住民の土地所有権を剥奪する活動であったと論じています。連れ去りは、家族、言語、遺産、文化とのつながりを失わせる結果となりました。寄宿学校にいた子どもたちの話を記録するデジタル・アーカイブの設立は、子孫に対する癒しを支援するための、過去の歴史清算、真実を語る場として役立つでしょう。

カナダでは、2007年にTruth and Reconciliation Commission (真実和解委員会 TRC) が設立されました。これは、アメリカの寄宿学校と平行して行われていたカナダの先住民寄宿学校制度の問題に取り組むためのものです。この間に、カナダは人種差別と被害という自国の歴史を清算する方向に前進しました。私が接したすべてのカナダの司書が、TRCを認識しているだけでなく、具体的に勧告を前進させるための全国的なプロセスに向けて地域の取り組みに従事していることを知って驚きました。National Centre for Truth and Reconciliation Archives (国立真実和解アーカイブセンター) は存在しますが、主にTRC関連の文書で構成されています。さまざまな文化遺産機関から寄贈されたアーカイブ資料が、被害を受けた個人やコミュニティの真実を語り、傷を癒すためにいかに役立つかを目の当たりにして衝撃を受けました。 寄稿: メリリー・プロフィット

当記事の詳細はこちらから
目次へ戻る

シリーズ:OCLCあの時この時 (6)
メインビルディングの起工式–OCLC Newsletter no. 123 (June 13, 1979)より

米国オハイオ州ダブリンにあるOCLCの建物は、現在、初代社長の名前にちなんでキルゴアビルと呼ばれていますが、その建物の起工式を報告する記事が当時 (1979年) のOCLC Newsletter no. 123に掲載されています。

「OCLCが新施設に着工、3,850万ドルの産業歳入債事業が成功」

このようなタイトルの付いた記事の中で、2,570万ドルをかけた施設建設は1981年1月に完了する予定である事、建物の建設や新機材の費用は3,850万ドルの産業歳入債で賄うもので、これはフランクリン群市場最大規模の債権プロジェクトである事が説明されています。利回り7.5%の同債券は5月25日に売り出され、5月30日までに完売したとの事です。

フレデリック・G・キルゴア氏(左上)は、6月5日午後に行われた起工式で、OCLCの新施設を「未来への跳躍台」と表現した。セレモニーには、OCLCユーザー評議会の代議員を含む120名以上が出席した。

 

(完成予想図) OCLCの新しい施設には、126,400平方フィートのオフィススペースと3階建て44,000平方フィートのコンピュータールームが含まれる。通常時は、コンピュータから回収された熱を利用して暖房。設計はオハイオ州コロンバスのBrubaker/Brandt。

 

建設予定地に起工の鍬入れ (シャベル入れ?) をするOCLCユーザ評議会会長ジョセフ・ボイキン氏(左)、OCLC理事会会長H. ポール・シュランクJr.氏

当記事の詳細はこちらから
目次へ戻る

 

(紀伊國屋書店 OCLC事業部)


掲載の商品・サービスに関するお申し込み・お問い合わせ先
株式会社紀伊國屋書店 OCLC事業部
電話:03-6910-0514 e-mail:oclc@kinokuniya.co.jp