戦前・戦中・戦後を通し、51年間途切れなく刊行された英文経済誌「THE ORIENTAL ECONOMIST」をジャパンナレッジが提供する電子書籍プラットフォームJKBooks上にてご利用いただける「The ORIENTAL ECONOMIST デジタルアーカイブズ」。前編の今回は同誌の歩んだ歴史と学術的資料価値に迫ります。
1982年から1985年までのピックアップ記事をご紹介する後編はこちら
『The ORIENTAL ECONOMIST』は、東洋経済新報社の創立40周年を記念して、昭和9(1934)年に創刊された月刊英文誌です。前年の1933年3月には、国際連盟を脱退するなど、日本では国際協調主義が影を潜め、国家主義が台頭していた時代です。
また、昭和6(1931)年12月の金輸出再禁止政策により、日本の為替相場が下がり、それにつれて日本の輸出が増えたため、イギリスをはじめとする諸外国において対日為替ダンピング批判は、日本の大陸政策や国際連盟脱退への警戒もあり、大きな国際経済問題となっていたのです。
そこで『東洋経済新報』編集主幹であり、代表取締役の石橋湛山は、満州事変以来、世界の注目を集める日本の現状が正当に理解されていないという問題意識のもと、英文誌の出版を決意しました。
日本とアジアの経済・政治・社会に関して世界へ正確な情報を伝え、アジア民衆の観点から論評を加えることにより、西洋市民の理解と公正な判断を得て、平和確保に貢献したいという願いがあったのです。
(May 1 1934 VOL.1 No.1)
翻訳調でなく日本の政治経済事情に詳しくない外国人にも理解できる文章を心がけ、単なるプロパガンダでなく日本経済の長所短所を摘出し向かうべき道を示すという編集方針により、諸国の同種雑誌に劣らぬ水準を維持し、外国の専門家から信頼を得るに至りました。
同誌の宛先は同盟国であるドイツ、イタリア、中立国のスイス、スウェーデン、ポルトガル、ソ連のほか、日本占領下の香港、上海、シンガポールなどでしたが、敵国側の英米にも中立国を介して入っていたといいます。
(January 15 1936 VOL.3 No.1)
海外諸国の官僚や軍人が数多く購読し、戦後にGHQ初代経済科学局長となるクレーマー大佐も長年の愛読者の一人でした。石橋湛山によれば、「本当のことを書きすぎて国家のためにならない」と、外国在住日本人(大使館、銀行、会社支店)からしばしば非難されたそうですが、奇妙なことに軍部がその存在価値を認め、太平洋戦争中にも雑誌発行の生命線である紙の配給を止めませんでした。
同誌は創刊から終戦時まで1945年7・8月および10・11月の合併号を除き、途切れることなく毎月発行されていますが、このことは戦時中に多くの雑誌が統合や廃刊を余儀なくされた中では注目に値します。
(August 10 1945 VOL.12 No.7-8)
戦後、当時の日本には信頼できる民間経済調査機関がなかったこともあり、同誌を高く評価していたGHQからすぐに協力要請を受けた石橋湛山は、日本の主張を注入できるチャンスでもあると考え、刊行サイクルを月刊から週刊に転換しました。
結果として、1946年1月12日号から1952年8月23日号までは、週刊誌となりました。多くのメディアが、この占領期間に出版活動を縮小する中で、逆に刊行頻度が増したところに同誌の特異性があります。
(January 12 1946 VOL.13 No.165)
今回は、1934年から1985年の51年間で、874冊-43,861頁のデジタルアーカイブズが検索対象となります。『東洋経済新報/週刊東洋経済』の英訳版でなく、オリジナル記事も多数収録しており、特に報道弾圧が激化した戦時中は、日本向けと海外向けである同誌と内容を書き分けていました。戦前戦後に切れ目がない稀少な英文誌ですが、これを使った本格研究は進んでいないのが現状で、貴重な学術研究資料となるでしょう。
(February 9 1946 VOL.13 No.169, October 27 1951 VOL.18 No.460, September 1 1964 VOL.32 No.647, January 1 1968 VOL.36 No.687)
(株式会社東洋経済新報社)
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